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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第5章 スメリワ襲撃

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第216話 でかいよ!


「一体何の騒ぎです!?」


 とそこへ騒ぎを聞きつけたのか、影治が取引した商人の男がやってきた。

 商人の傍には、ちょっかいを掛けてきた者とは別の護衛が2名ついている。 

 その二人は地面に倒れている仲間の護衛たちを見て、得物に手を回す。


「待ちなさい。まずは話を伺いましょう」


 しかし商人の男がそれに気づき注意すると、護衛の二人は得物からスッと手を離した。


「それが賢明だな」


「あなたは先ほどの……。一体何があったんですか?」


 硬い地面に投げられた護衛の男たち。

 地面に打ち付けられた際の衝撃は中々のもので、大きく呼吸が乱れた者もいたが、命に別状はない。

 これがもし前世で同じことをしていたら、下手したら打ちどころが悪くて死んでいた可能性もあっただろう。


「こちらの実力も見抜けずに絡んできたんでな。力を見せてやっただけだ」


「力を……。ダン、どう思う?」


「見た目だけじゃ分からん。だからこいつらも突っかかっていったんだろう」


 商人の男が声を掛けたのは、傍らにいたふたりの護衛の内、オーガ種族の方の護衛だった。

 妖魔の場合大まかな種族は見た目で分かるのだが、正確な種別となると判別が難しい。

 影治に関しても、天使だということは一部の者に明かしているが、それが上位の種族であるマギセラフだということは知らないままだ。


「なんならそこのデカイのも試してみるか?」


「会長……」


「分かりました。後学の為にも、その力というのを見せてもらえますか?」


「いいぜ。手ぇ出しな」


 見本を見せるように、両手を開いて上に掲げる影治。

 ダンと呼ばれていたオーガの男は、身長が2メートル半はあった。

 そのせいで、影治が上に伸ばした手はダンの胸の位置までしか届かない。


「手もデケェな……。でも掴めないほどでもねえ」


 互いに向かい合ったまま、両手を掴み合った状態。

 分かりやすい力比べの構図だった。


「特にルールはねえが、相手を倒した方が勝ちだ」


「分かった」


 あまりべちゃくちゃと喋るタイプではないのか、短く答えるダン。

 両者準備が整ったと見た商人の男が、開始の合図を告げる。


「では……始め!」


「ッ!? ぬぬぬ……」


 明らかな体格差と見た目によるパワーの印象から、半信半疑だったダン。

 しかし軽く押しつぶしてやろうと下方へと向けた力は、まるで重い岩を押しているかの如くビクともしない。


「どうした? そのバリバリにキレてる筋肉は見せかけか?」


「ぐ……ぐぐぐぐッ!」


「お? 良い血管出てるぞ! ナイスバルク!」


 顔を真っ赤にさせて力を込めるダンに、ボディビルの掛け声のようなものをかけ続ける影治。

 ダンのそれが種族由来なのか努力によるものかは分からないが、ボディビル的に見てなかなか見ごたえのある筋肉だというのが影治の素直な感想であり、特に貶しているというつもりはない。


 しかし必死に力を込めているのにビクともしないばかりか、妙な掛け声を掛けられたダンは少しむきになってしまった。

 普段は些細なことで感情を動かされることはないのだが、純粋なる力の体現者という、自分のアイデンティティが崩れそうだと感じたからだ。


「ぐうううぅぅ、むんっ!」


「ッ!」


 気合の声を入れたダンは、ここで闘気術を発動させる。

 これまで影治も素の力で対抗していたのだから、闘気術を使うというのは力比べに負けたことを自ら表明するようなものだが、頭に血が上っているダンからはそういった考えは飛んでいた。


 一方影治は、相手の筋肉や直に触れているダンの両手から、闘気術が発動するのをいち早く察知する。

 相手の体に接触している状態というのは、非常に多くの情報を取得できるということだ。

 だからこそ影治は、ダンが闘気術で増強したパワーで、地面へと押し付けようとする力の流れを完璧にまで読み切っていた。


「はい! ズドーン!」


 そんな気の抜ける声とは裏腹に、影治が行ったことは周囲の度肝を抜いた。

 闘気術によって一気に強化された、ダンが影治を押しつぶそうとする力。

 影治はその相手の力を利用する。

 自分の体内に相手の力を流し、そのまま減衰させることなく相手へと返したのだ。


「グアアアアアッ!?」


 それもただ返すのではなく、ダンの上から下へと押し付ける力の流れを、下から上への流れに変えて返したのだ。

 その結果、跳ね返った自分自身の力によって、ダンはその場から上方へ2メートルほど飛び上がった。

 その様子は、樽におもちゃのナイフを差し込んでいくおもちゃで、ハズレを引いた時のようだ。


 2メートル半もの巨体が、体格で大きく劣る影治に上方へ飛ばされる場面を見て、その場にいた誰もが力の差というのを歴然と感じ取る。

 商人の男もこれまでの抜け目ない表情から、口を軽く開いた少し間抜けな表情のまま固まっていた。


「お前ら見てたか? 今のは途中までは剛法による力で対抗し、奴が闘気術を発動したのに合わせて、柔法で力を流した訳だ」


「うむう……。こいつは凄まじいのぉ」


「う、うわあああああ!」


 影治がダンを派手に投げ飛ばしたのを見て、最初に影治に絡んでいった護衛の男たちが、叫びながら自分達の馬車の方へ逃げていく。


「……これは驚きました。見たことのない髪色ですが、怪力を持つ種族なのですか?」


 影治は普段は平静の帽子を身に着けていることが多いが、食事時や休憩時などには外していることもある。

 今では帝国にいた時のように、髪色を隠す必要もないのだ。


「いんや。どっちかっつうと、力より魔術が得意な種族だな」


「なんと……。この度はご迷惑をおかけしました。彼らは今回初めて雇った連中でしたが、今回限りにした方が良さそうですね」


 逃げていった護衛の男たちの方を見ながら、彼らの進退について語る商人の男。

 ダンともうひとりの護衛はそれについて何も反応していないので、この二人はあの声を掛けてきた護衛たちとは扱いが違うのだろう。


「ま、別にハンターや冒険者ならあんくらい別に普通だとは思うけどな」


「これは人によるのでしょうが、私は商売には信用が大事だと考えております。ですが、彼らのように揉め事を……それも直前に取引したばかりの相手に絡むようでは、信用を築くどころではありません」


「ふうん、大した志だな。っと、そういや名前も聞いてなかった。俺は影治だ」


「これはこれは。私はブローム商会を営んでおります、リーブス・ブロームと申します。王国西部で主に行商を扱ってますので、どうぞ宜しくお願いします」


 そう言って手を差し出すリーブス。

 流石に影治もその手を取ってリーブスを地に伏せさせるような真似はせず、普通に握手を交わす。

 その後リーブスはお詫びの品として、取り扱っている商品を影治へと渡すと、自分の馬車へと戻っていった。


「ブローム商会……聞いたことない商会ですね。会長と呼ばれていたリーブスが直々に行商に出ているということは、規模の小さい商会なのでしょう。それよりもエイジ。私にも指導をお願いしますわ!」


 成り行きを見守っていたカレンが、熱の籠った目で影治にお願いする。

 カレンはヒューマンの女性としては、大人の平均身長と同じくらいであり、影治とも同じくらいの身長だ。

 そんな自分と同じ身長の影治が、オーガの大男をあのように投げ飛ばす光景を見て、自分にも同じことが出来るのではないか? と興奮しているようだった。


「ああ……、まあんじゃ続き始めるぞ」


「おう、頼むぜ!」


 カレンだけでなく、先程影治が見せたパフォーマンスは、他の者のやる気をも過熱させるものだった。

 その後は就寝直前まで熱の入った訓練が行われ、それは今回の旅において、今後も夜営の度に行われることになるのだった。


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