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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第5章 スメリワ襲撃

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第215話 剛法の威力


「違う違う、そうじゃない。今のは力で受けただけだろ? もっと体の力を抜いて受けるんじゃなくて、力を流すように意識しろ」


「そ、そう言われましてもなかなか上手くいかず……」


「はぁぁ。やっぱ基本からやらんとダメだなこりゃ。しかも全員が全員既に癖が付いちゃってるから、矯正すんのは大変だぞ」


 アルフォンスと護衛の騎士は、以前影治が騎士たちの攻撃を軽くいなしていた光景が強く目に焼き付いており、その技を教えてもらいたいと願い出ていた。

 騎士達は優秀な者が選出されているのだが、それでも指導は上手くいかない。

 変に癖が染みついた騎士よりも、カレンの方が吸収が早いくらいだ。


「こりゃあ俺の技術をそのまま伝えるのはまず無理だ。付きっ切りで何年も教わるならともかく、余りに剣術に対する捉え方が違い過ぎる」


「エイジ殿に教わった基礎訓練は続けているのですが、そう上手くはいきませんか……」


 これまで何度か領主の館を訪れた際に、影治は騎士達に四之宮流古武術の基礎の訓練法を伝えている。

 それは四大原則である呼吸や脱力、軸を整えるものだ。

 しかしこれまで力で剣を振るってきた騎士たちにとって、脱力しながら剣を振るというのが難しいようだった。


「基礎を続ければいずれ芽は出るだろうけどな。だがまあ、やり様は他にまだある。しの……うちの流派には、柔法と剛法というものがあってな。柔法が例の攻撃を受け流す奴だが、剛法はどれだけ自分の秘めたる力を出し切れるか、というのを追い求める技術だ。ちょっとお前、そこで剣を構えてみな」


「はっ、こう……でしょうか?」


「それでいい。まずはお前達が普段使ってる力の使い方をするぞ」


 そう言って影治は手にしたレッドボーンソードを、相手の剣に合わせると、そこから降りぬこうとして力を籠める。


「ぐっ……、おおおおおおおおぉぉぉぉッ!」


 剣を振り下ろそうとする影治に、その剣を押し返そうとする騎士の力が反発して、力比べのような状態になる。

 闘気術や魔術で強化していない影治の素の力だと、騎士が僅かに押される程度で踏ん張ることが出来た。


「今のが何も強化していない、普通の力の使い方をした攻撃だ。次に、軸を整えて自重を乗せてやるとこうなる」


 先ほどと同じように、剣を構えていた騎士に自分の剣を合わせてから振り抜く影治。

 騎士も何をされるのか分かっているので、押し負けまいとかなり力を込めて対抗しようとする。

 しかし、一瞬たりとも拮抗することなく、影治の剣は騎士の剣を押しのけて振り抜かれた。


「なっ!?」


「これだけで大分変わんだろ? 更にそこに、全身全ての骨や関節、筋肉の動きを調節して、全てを同時に連動するように動かすことで……ほら、もっかい構えろ」


「は、はい…………ッ!?」


 まだ混乱の最中にある騎士だったが、先程と同じように耐えようとしてみせたのだが、今回もあっさりと影治の剣が振り抜かれてしまう。


「……しまった。さっきの状態でも普通に振り抜けたんだから、最後の奴と2番目の奴の違いが分からんなこりゃ」


「なら儂の盾で受けてみてよいか?」


 騎士とのやり取りを見て、我こそはと名乗りを上げるボミオス。

 ボミオスはパーティー名の由来ともなった大盾を使うが、この大盾は影治のソードスラッシュ同様に魔導盾であり、各種防御力と頑丈さが強化された逸品だ。


「いいぞ。ただ下手すると武器が壊れかねんから、訓練用に用意したもんを使う」


 理を完全に置き去りにする神伝位であれば、そこらの木の枝を思いっきり金属に打ち付けようと、折れることなく逆に金属をへこますことだって可能だ。

 だがそこまでの領域に至っていない影治では、まだ不安がある。


 影治が今手にしているレッドボーンソードは、元々はチェスを仲間にした時に最初からチェスの中に収納されていたものだ。

 あれからことあるごとに使っていたので、このレッドボーンソードには愛着も湧いている。

 なので今回は刃を潰した訓練用の剣を使うことにした。


「じゃあまた順番にいくぞ? まずは普通に力を使って振り下ろした場合……」


 ガキイイイインッ! という金属音と共に、訓練用の剣がボミオスが構えた盾に打ち込まれる。

 これでもかなりの衝撃がボミオスには伝わっており、騎士が盾で受けていた場合は体勢を崩されるくらいの衝撃はあった。


「次が軸を整えて自重を乗せる使い方……」


 先ほどと同じようなモーションと、同程度に見える速度で振り下ろされた剣は、しかしガゴオオオオオオンッ! という先程とは異なる、より重い金属音を響かせる。


「ぐぅぅっ……」


 辛うじて体制は崩されていないものの、同じ勢いでもう一度剣が振られたら耐えることが出来ないほど、強い衝撃がボミオスを襲っていた。


「へぇ……。全部自分の体で受け止めようとせずに、地面へと幾分か力を流したな。その力の使い方はいいぞ。単純に力で勝てる相手なら強引に受け止めるのもいいが、そうした盾の使い方をすれば、体への負担が減って次の動作にも移りやすくなる」


 四之宮流古武術に盾術というのはないので、影治も盾は使えない……というよりは使ったことがない。

 だが盾を持った相手とは何度も戦ったことがあるので、簡単なアドバイスくらいは送ることが出来る。


「ぬう、これが技術というのか? まったく同じ攻撃に見えたが、受けてみるととんでもない違いがあったぞ!」


「おいおい、まだだぞ。次は全身を使った奴だ」


「……よし、来い!」


 気合を込めたボミオスの声を聞いた影治は、また先ほどと同じようなモーションで剣を振る。

 すると今回も先ほどまでとは違う、ズドオオオオオオオンッ! という音が響く……だけに留まらず、近くにいた者は地面が振動するのを感じ取っていた。


「ぐむ……、まさかここまでとは……な」


 受け止めた直後は辛うじて立っていたボミオスだったが、そう言うなり膝をついて崩れ落ちる。

 彼の足元の地面は強い衝撃により陥没しており、先程の音と併せてどれだけ強い衝撃がボミオスを襲ったのかを物語っていた。


「ぬ? ちょっと曲がっちまったか?」


 訓練用の剣に持ち換えた影治だったが、ただそれをそのまま振ったのではなく、アシュトンが使っていた闘気武装という技を使用していた。

 これは闘気で武器を覆うことで、武器の強度や攻撃力を強化するものなのだが、影治はまだまだ形になっているとは言えず、アシュトンの使うそれと比べたら大分未熟だ。

 そのせいか、ふんわりと闘気を纏って打ち付けられた訓練用の剣は、強い衝撃によって微かに曲がってしまっていた。


「ま、今のが剛法を使った攻撃だ。剣の場合、柔法だと切れ味が増すが、剛法だと衝撃力が増す。なので、本来は片手剣で使うよりは両手剣で使う方がいいだろうな」


「おいおい……、マジかよ!? 両手剣っつったら、ビッグソードのオレにピッタリじゃねえか!」


 バキルは同じパーティーの仲間として、ボミオスと模擬戦を行うことがよくある。

 しかし、今の影治の剣より巨大な剣を扱うバキルであっても、盾を構えたボミオスをあそこまで打ち崩すことは出来ない。


 もし自分がこの技術をモノに出来たら……と思うと、バキルは興奮が抑えきれず、無自覚に尻尾をブンブンと振り回してしまう。

 それは何もバキルだけでなく、アルフォンスや騎士達も同様だ。

 しかしここでその興奮に水を差すような茶々が入る。


「よお、さっきから見てたんだけどよ。あんたらは役者か何かなのか? だとしたらかなり一流だな」


 そう言って割り込んできたのは、同じ野営地で夜を明かすことになった、行商人が雇っていた護衛のひとりだった。

 男の周りには他にも護衛が幾人かおり、皆一様にニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「ああん? んだ、テメェは……」


「まあ、待て」


 水を差されたバキルは、苛立ちを隠そうともせず口を挟んだ男の下にズカズカを歩き出す。

 その動きを止めた影治は、代わりに男の下まで右手を差し伸べながら歩いていく。

 この世界にも握手の習慣はあり、主に初対面の相手と交わす挨拶という点も同じだった。

 護衛の男も影治のその動きを見て、胡散臭い剣術を披露していたガキに痛い目を見せてやろうと思いながら、手を差し出す。


「なんだ、仲良く握手か? やっぱ剣士でもなんでもなく、ただの役者なんじゃねえ……カアアアアアアアアアッ!?」


 握手した際に思いっきり影治の手を握り潰してやろうと思っていた護衛の男だったが、握手をしようと手を握った瞬間、体が地面に押しつぶされるようにして崩れ落ちた。


「ぐっ……、があああぁぁぁっ! は、離せ! 離しやがれ!」


 護衛の男が喚きたてるが、すでに男の右手は握手の形から崩れていた。

 自分から影治の腕を握りこみ、影治はそんな男の手首をそっと掴んでいるだけにしか見えない。

 つまり、護衛の男が手を離そうと思えばいつでも離せる体勢にしか見えなかった。


 だというのに、痛みを感じているらしい男は右手を振りほどくこともせず、ひたすらに地面を転げ回っては拘束を脱しようと動き続ける。

 だが下手に動けば動くほど、男の関節や筋の痛みは増すだけであり、結局は下手に暴れずにいた方が楽だということで、まな板の上の鯉のような状態になってしまった。


「どうした? 人を役者呼ばわりしておいて、お前も同じじゃねえか。お前はどこの劇団の者なんだ?」


「て、テメェ……!」


 何故その手を離さないのか、訳が分からないといった状態の男の仲間達だったが、自分達が虚仮にされていることに気付き、腕を振り上げ影治の下に殺到する。

 だが襲い掛かった男たちは、無手の状態の影治に次々に投げ飛ばされ、硬い地面に叩きつけられるのだった。


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