第1032話 決闘のルール
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影治達が元々いた現代日本と違い、法整備もまともに整っていないこの世界では、時に決闘によって決着を付ける事がある。
ただ余り頻繁に利用される制度でもないし、国によっては禁止されている所もあった。
この世界の一般的な決闘は、当事者双方が合意の上で日時、場所、ルールなどを取り決め、武力によって決着を付ける事である。
その際は、原則として戦うのは当事者同士になるが、当事者同士の同意があれば、代理人を立てる事も可能だ。
今回の件で言えば、影治もタリオンも代理人を立てる事なく、当人同士で戦う事になる。
「では日時やルールについて決めようではないか」
「俺は何時でもいいぜ? 場所もそっちに任せる」
「ボクとしても今すぐにでも決着を付けたい。場所は……冒険者ギルドの訓練場でどうだ? 稀にだが、決闘の場として利用される事もあるし、幾らか払えば職員が立会人を務めてくれる」
「それでいいぜ」
「では早速移動しよう。ルールに関しては現地についてから決める」
最低限の話し合いが終わると、影治とリュシェル。
そしてタリオンと……魔導具店にいた客の何割かが、一緒にあとをついてくる。
これは別にタリオンの関係者という訳ではなく、単なる野次馬根性の赤の他人だ。
「済まない、決闘の場としてギルド訓練場を使わせてもらえないか? それと職員から立会人を出してもらいたい。立会人には報酬も支払おう」
「タリオン様が決闘なさるのですか?」
「ああ。ギルドの訓練場では稀に決闘をやっているだろう? それを頼みたい」
「ええっと、はい……承知致しました。それでしたら、訓練場を決闘場として使用する為の使用料として2万ダン。立会人への報酬として、1万ダンをお支払いいただきます」
「分かった、今すぐ支払おう」
「ああっと、俺も半分持つぜ」
冒険者ギルドの訓練場は、冒険者であれば無料で使用する事は出来る。
だが決闘の場として申請する場合は、必ずしも冒険者が利用するとは限らない。
というか冒険者の場合、決闘などせずに普通に模擬戦用の武器で決着を付ける。
決闘の場として申請する場合は、その間他の冒険者が使えなくなってしまうので、その分も含めて使用料が取られる仕組みだ。
「おい! 決闘だってよ!」
「へぇ、んなの初めてみるぜ」
「お前は他国から来たんだったな? この街だと割と魔術師同士の間で決闘する事もあんだよ」
「そうそう。それも俺らにゃあよく理解できねえ内容で争ってやがんだよ」
これから行われる決闘は、どちらかが死ぬまで戦うイメージのある日本の果し合いとは異なる。
形式としては、近世ヨーロッパの名誉の為の決闘に近い。
負けた側は勝った側の言い分を認める事で、名誉を回復するという目的で行われる。
「では行こう」
互いに折半して費用を支払い、訓練場へと移動する影治達。
その後を、魔導具店からついてきた野次馬に加え、ロビーにいた冒険者も加わって、騒がしさを伴いながらついてくる。
「ルールだが、互いに命を奪うのは無しとする。これはギルドで決闘する際の基本ルールだ。ボクとしても、幾ら気にくわない相手だからといって、命を奪うつもりはない。それから参ったと言った時点で負けとする」
「まあ、その辺は基本だな」
「ああ。だがそれ以外のルールも決めておきたい。話の発端からも分かっているだろうが、ボクは魔術師だ。ギルドでの決闘は魔術師同士の争いが多い。普段は問題ないが、キサマは剣士なのだろう? そうなると開始位置が問題となる」
影治の装備は、見た目からして軽装の剣士のように見える。
この街の魔術師の多くは、杖を持ち歩いている者が多いので、影治が凄腕の魔術師である事を知っているのは、影治本人とリュシェルだけだ。
「そこで開始位置は、互いに距離を取った位置から始めたい。だが余り距離を開けすぎても魔術師側が有利になる。この街のギルドでも、前衛対魔術師の決闘は少ないが、おおよそ20メートル位が妥当だと思うのだがどうだ?」
「別に俺は何メートルでも構わねえぜ。それよりもよお、幾らそれなりに広い訓練場つっても、派手に魔術を使うのはやべえんじゃあねえか?」
「それなら問題ない。ここは魔術王国の王都にある冒険者ギルドだ。設置型の強固な魔術防御陣が敷かれている」
「強固な魔術防御陣ねえ……」
決闘場の使用料として2万ダンも取られるのは、この魔術防御陣の使用を前提としたものだからだ。
魔術の的として、一部分だけに防御魔術を張るのとは違い、決闘の場として使用する際には広範囲に亘って防御魔術が展開される。
これらの防御魔術は、魔導具や付与魔術で防御系の魔術を付与したもので構築されており、維持する為には魔石が必要だ。
高めの使用料の内訳は、主にその魔石分となる。
だが影治が本気で魔術を使えば、この程度の防御は容易く抜けるだろう。
影治は今回派手な攻撃魔術を使うつもりはなかったが、強固な魔術防御陣と言われて微妙な反応を見せる。
「何か問題があるのか?」
「いや、別にいいぜ。他に何かあるか?」
「他には事前に支援系の魔術、及び呪符などのアイテム使用不可。アイテムに関しては戦闘中も使用不可とする。勿論ポーションなどもな」
「はいはい、おーけいおーけい」
影治としては負けるとは一切思っていないので、ついついおざなりな返事になってしまう。
そんな影治を見て激発しそうになるタリオンだったが、どうにか感情を抑えて最終項目を告げる。
「ぐっ……。ルールは以上だが、ボクが勝利した暁には、キサマはあの時言った言葉を撤回し、自らの過ちを認めて謝罪しろ!」
「ふん、当然お前が負けた場合にはお前に謝罪してもらうぜ? あんだけ前衛の事を頭が悪い脳筋だとか言ってたんだからなあ」
影治がそう言い返すと、周囲の前衛の冒険者からタリオンに向かって野次が飛ぶ。
冒険者ギルドとしては平等に扱っているが、フロウヴィウムでは魔術師の地位が高い。
ラヴェリアの横柄な貴族ほど酷い訳でもないが、日ごろから前衛の物理職の冒険者の中には鬱憤が溜まっている者もいる。
「はいはい! 今回の決闘は珍しい剣士と魔術師の対決だああ! 生憎と剣士の方の情報はねえが、魔術師の方はあの三災の魔導士のタリオン! 冒険者としても活動してっからお前らも知ってるだろうが、ダマスカス級の冒険者だ! さあ、張った張った! 今んとこ、タリオンの方が圧倒的人気だけど、その分剣士ボーイで大穴も狙えるぜ!」
魔導具店からついてきた者に加え、ギルドのロビーや訓練場で訓練していた冒険者らが賭けを始める。
これは決闘の際の定番となっているのか、ギルド側も特にそれに対して注意したりすることもない。
そして騒ぎを聞きつけた冒険者が、更に仲間を呼んだりして集まってきており、訓練場にはかなりの数の人間が押し寄せた。
元々王都にあるフロウヴィウムの冒険者ギルド本部の建物なので、訓練場もかなり広く作られている。
「おうおう、随分騒がしくなっちまったな」
「エイジ様! 私はエイジ様に全掛けさせて頂きます!」
咄嗟に始まった賭けの割には、割とすんなり進行している。
賭けはどちらが勝つのかという単純なもので、掛けられる金額の上限が設定されており、リュシェルは上限一杯まで影治にベットしていた。
「ふんっ……。いつもは他人事のように見ていたが、まさかボクが賭け事の対象になる日が来るとはな」
「こんだけの人の前で倒されるんだ。今から謝罪の練習でもしておけよ」
「ぬかせっ! キサマなど、ボクの魔術一発で仕留めてみせる!」
「両者戦闘前から戦意が燃え滾っているぞおおお!! さあさあ、もうすぐ決闘がはじまっちまう。受付はもうすぐ締め切りだぜ!」
賭けの元締めを始めた冒険者と、元締めの知り合いだか同じパーティーメンバーだか数人が、降ってわいた儲けのチャンスに声を張り上げる。
当事者たる影治とタリオンは、立会人と共に決闘場の開始位置につく。
そして決闘が始まった。




