第1030話 魔導具店にて
「では私はクリスピアーノ学院の方に話を持ち掛けましょう。多分受け入れてもらえるとは思うのですが、結果報告は後程お泊りになっている宿の方に届けますので」
「頼んだぜ」
今後の予定について話がまとまると、影治達は自分達の宿泊している宿の名前を伝え、パターソン国立魔術学院を後にした。
その次の日にはログモンドはクリスピアーノ魔術学院に話を持ち掛け、影治達3人を臨時の特別講師として招くことが決まる。
ただ次の日からすぐ来てくれという話にはならず、手続きやら何やらの関係で5日ほど待たされる事になった。
「つう訳で、今から王都を調査するのもアリっちゃあアリなんだが、どうせ俺等が講師として活動している間にリュシェル達も調査に入るんだから、まずは王都を見て回ろうぜ!」
「お供します、エイジ様」
ログモンドからの報告で、数日暇になると知らされた影治は、フロウヴィウムの王都を探索する事にした。
いつものように、街での行動は基本自由行動だ。
リュシェルは影治にくっついて魔導具の店や書店などを回り、ティアやシャウラは屋台や食堂などを巡る。
カレンは最初に申告した通り、ギルドまで赴いて訓練場で魔術の訓練に励む。
「ううん、どこの店も魔石や魔晶石なんかの品ぞろえが豊富だな」
立ち寄った魔導具店の品ぞろえを見て、感想を述べる影治。
すでにこの店で4件目なのだが、どの店でも品ぞろえは良かった。
勿論店の規模にもよるのだが、小さい店は小さいなりに希少な品や、使い道が限られるような品を取り扱う事で、個性を出しているようだ。
「魔石に関しては常緑の迷域で乱獲されてますからね。魔晶石の方は、ダンジョン産のものではなく錬金術士によってつくられたものになります」
「常緑の迷域ってのは近くにあるダンジョンか?」
「はい。クリスピアーノ魔術学院だけに限らず、他の学院や私塾などに通う魔術師が、実習やお金稼ぎに利用する定番のダンジョンですね。第1層はそうでもないのですが、2層以降は結構な数の魔物が纏まって行動しているので、魔術師からすると美味しいダンジョンなんですよ」
「つっても、前衛がいねえとキツイんじゃねえか?」
「ええ。ですので、そこは冒険者を雇う事が多いですね。私は剣も多少扱えますが、魔術学院の生徒の多くは物理戦闘がからっきしダメですので」
「雇われる冒険者側からしたら、多少の自衛能力は持っていてほしいもんだがな」
「その辺の意識の違いもあって、結構揉め事になる事も多いですね。特に学院の生徒は魔術が使えない前衛を下に見る事が多いですから」
「ふうん。自分の身も守れねえ奴が偉そうにしてるって訳か。魔術師なんて魔力が切れたら役立たずになるってのに、プライドだけは高ぇんだな」
「おい、キサマ! それはボクに喧嘩を売っているのか?」
影治は今リュシェルと2人で行動しているので、それほど大きな声で話していた訳ではない。
だが偶々近くにいたエルフの耳に入ったようで、指を突き付け影治を見下しながら声を荒げる。
「何だお前。別にお前に何か言った訳じゃあねえよ。喧嘩売ってんのはそっちだろ」
「何を言う! ボクの耳はしっかり捉えていたぞ! 魔力の切れた魔術師なんて役立たずだって」
「それがどうしたってんだよ。ただ事実を言っただけじゃあねえか」
「ふんっ! 魔術師がただ魔術を扱うだけの存在だと思っている事こそ、頭の悪い前衛の証だな。我々魔術師は魔術を扱うだけでなく、深淵なる知識の探究者でもあるのだ! ただ武器を振るうしか脳がない前衛とは違うのだよ」
「それは答えになってねえだろ。安全な街の中ならともかく、戦場やらダンジョンやらで、魔力が切れた魔術師が役立たずってのは事実だろうが」
「その前提条件がそもそも間違っているのだよ。我々魔術師は、無計画に行動したりはせん。自分の魔力量を計算しつつ、適切に魔術を運用することで、肝心な時に魔術が使用出来ないなどという事態を回避している。それに魔力が切れた時の為に、マジックポーションや魔晶石を常備するのは魔術師として基本だ。前衛の脳筋共こそ、スタミナ配分を間違えて攻撃を仕掛けた挙句、スタミナ切れで手痛いダメージを貰ったりするではないか!」
「そりゃあお互い様だな。前衛だって、全員が全員無暗に敵に突っ込む奴ばかりじゃあねえだろ」
「それなら何故魔術師を非難したのだ!」
「魔術師を非難したんじゃあねえよ。前衛を下に見るプライドの高い魔術師はどうなんだ? って話をしてただけじゃあねえか」
「選ばれた者にしか使えない魔術を使えるのが我ら魔術師だ。プライドを持つのは当然であろうが!」
「……うわっ、この国ってこんなんばかりなのかよ」
選民思想を感じられる男の発言に、思わず影治はドン引きする。
影治達のやり取りは既に店内にいる他の客の注目を集めており、幾つもの視線が向けられていた。
その内の幾つかの視線は、あからさまに影治を見下すような視線であり、恐らくはエルフの男と同じ魔術師なのだと思われる。
「エイジ様。この者はエルフの進化種なので、よりフロウヴィウム色が強いのかと思われます。魔力量もそれなりにあるようですので」
「ああ、なるほど。井の中の蛙って奴か」
「おい、キサマ! イノォナカーノカワージュとは何だ!?」
「そんな事も知らねえのか。魔術師ってのは、深淵なる知識の探究者じゃあなかったか?」
「質問に質問で返すな! いいから早く意味を言え!」
元々前世のことわざをそのまま日本語で発音して言ったので、エルフの男が理解出来ないのは当然ではあったが、そんなことは百も承知で影治はエルフの男を煽る。
「お前にも分かりやすく言うなら、『洞穴のコボルト、空の広さを知らず』ってことだよ。世の中にはお前より上は山ほどいるってのに、狭い世界でイキってるだけの奴って話だ」
「き、き、キサマアアアアアアァァァ! ボクを愚弄するか!!」
「事実を述べる事が愚弄に値するってんなら、愚弄したって事になるんだろうな。ま、お前の中だけの話だけど」
「ッッ!」
「お、お客さん! こんな所で困ります!!」
その影治の一言でついにぶちぎれたエルフの男が、腰に差していた杖を手に取る。
それを見た店員も、流石にこれ以上放ってはおけないと割り込む。
魔術師と杖というのは定番の組み合わせというイメージがあるが、この世界では必ずしもそうではない。
ダンジョンなどで発掘される武器としての杖には、一応魔術の威力向上や消費魔力軽減などの効果が付与された物も存在する。
だが魔術師で冒険者活動をする者は、魔術の効果を高めるよりも、自分の身を守るための近接武器を使用する者が多い。
それは場合によっては、前衛を抜けて自分にも魔物が迫る恐れがあるためだ。
だからこそ魔術師の冒険者の杖使用率は低いのだが、逆に国に雇われる兵士であれば、杖を使用する者も多い。
ダンジョン産でなくとも、杖先に魔石などを埋め込み、触媒などを仕込んで作成された杖でも、魔術の補助効果はある。
兵士の一部隊として運営される魔術師は、国から支給された杖を使い、これまた冒険者魔術師が練習しない、集団詠唱などの訓練を行う。
……とそれがこの世界での一般的な魔術師なのだが、フロウヴィウム魔術王国では、冒険者として活動している魔術師であろうと杖を持つ者は多い。
それは学院や私塾などで魔術を学ぶ際、杖の使用が推奨されているからだ。
「このボク、タリオン・フェルシアは、キサマに決闘を申し込む!」
どうやらエルフの男……タリオンも、この場で魔術を放つつもりまではないようで、抜き放った杖先を影治に向けながら、決闘を申し込んだ。
平民の場合はわざわざ決闘などを申し込まず、そのまま殴り合いになる事が多いので、この世界で決闘と言ったら貴族がするものという印象が強い。
だが平民の間でも決闘が行われないという訳でもなく、立会人やルールを決めて執り行われる事もある。
「いいぜ。少しは暇つぶしになりそうだ」
完全に頭に血が上っているタリオンに対し、影治はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら決闘を受け入れた。




