第1028話 王都ウィテスト※
フロウヴィウムに入国したドラゴンアヴェンジャー一行は、途中で幾つかの街に寄り道しつつも、フロウヴィウムの王都ウィテストに到着した。
この世界では、ある程度以上人の集まる都市では、周りを街壁でぐるりと囲むのが一般的だ。
それは他国に攻め込まれた場合の防御も担うが、魔物への防御手段ともなる。
街壁は高く厚みがあるほどより防衛力は高くなるのだが、ウィテストの街壁は他国の首都のそれと比べると、高さが10メートル程と際立って高いという程ではない。
だが厚みはかなりのものであり、更には胸壁の上部分には鋭角に切り立った屋根が取り付けられている。
この屋根があるお陰で、雪の降る冬場でも移動を阻害される事もないし、屋根の下部分が胸壁を覆うような構造になっているので、外部からの遠距離攻撃なども防いでくれる。
勿論、屋根を付けた分だけ建築に手間がかかっているが、ここは魔術師の王国。
土属性の使い手を中心にした多くの魔術師によって、これらの堅固な街壁は作られている。
またこれらの石壁は、付与魔術や錬金魔術などによって強化されているので、見た目のインパクトはそれほどではないが、かなり強固な守りとなっていた。
「ふむ、かなり道が広いな」
手続きを済ませ街に入った影治は、まず道の広さに目がいく。
大通りなので道が広いのは当然ではあるが、他国のそれと比べても明らかに道が広い。
さりとて、ニューホープのように車道と歩道が分かれているという訳でもなく、大通りには雑多な人で賑わっている。
「意外とエルフが少ないですわね」
「ここは寒いですからね。種族問わず、昔から住んでいるとか、寒さを気にしないような人でないと、わざわざ定住しようとは思いません」
フロウヴィウムの王族は、建国以来エルフが担っているのだが、だからといってエルフが多く暮らしているという訳ではない。
街並みを見渡してみると、ヒューマンがやはり一番目に付く。
他にドワーフやエルフなどの人族もそれなりに見られるが、獣人族は少ない。
すぐ南にリニア同盟があるので、そちらに流れているのだろう。
人族に次いで多いのは妖魔だが、一口に妖魔といっても多種多様な種族が含まれている。
妖魔というくくりで見るとそれなりに多いが、ゴブリンだとかオークだとかで分けてみると、そんなに見かける割合は多くない。
「で、まずはいつも通り宿探し?」
「そうだな。その後はログモンドという奴に会いにいく」
ログモンドというのは、王都に長年赴任しているレイノルズの天翼の名だ。
天翼とはレイノルズの中でも優秀で、天使だけがなれる役職であり、ログモンドもその例に漏れず種族はエンジェルとなっている。
特に偽名を使っている訳ではなく、本名はログモンド・パルメグランという。
ガンダルシアのネゼやカウワンのサロメ同様に、そうした優秀な者は、なろうと思えば赴任先の国で大きな地位を得やすい。
ログモンドは国の要職という程ではないが、長年パターソン国立魔術学院に務めているので、国からの信頼も厚い。
また人脈もかなり広く築いているので、情報も色々集まってくる。
先に宿を取った影治達は、かつてこの街で暮らしていた事もあるリュシェルを案内役として、パターソン国立魔術学院に向かった。
だが……
「申し訳ないが、高ランクの冒険者といえど、部外者を中に入れる訳にはいかない」
と門番に断られ、足止めされてしまう。
一応門番も影治達がアダマント級の冒険者と知って、高慢な態度はとっていないのだが、融通がきかず中に通してくれそうにない。
「分かった。じゃあ代わりにログモンドに取次してくれねえか?」
「ログモンド……? ッ、パルメグラン様ですか!?」
「そう、それだ。グルシャスから聞いた例の件について、話を聞きにきたって言えば伝わるはずだ」
「わ、わかった。今人をやるので、ここで少し待っていてくれ」
これがただの一般人であれば、門番もこのような態度を取らなかっただろう。
だが先にアダマント級のギルド証を見せているので、話はスムーズに進んだ。
門番の反応からも分かるように、この国……特にこの王都ではログモンドの名は有名だった。
天氷の賢者という二つ名で知られている通り、クラスⅩまでの氷魔術を扱う事が出来るからだ。
それも数百年前からこの国で活動をしているので、魔術の腕だけでなく知識も深い。
この魔術王国で、名が知れ渡るのに必要な条件を、全て兼ね備えた人物だった。
「……随分待たされるわね」
「こちらの学院は詳しくありませんが、それでも3大学院の1つですから、かなり広い筈です。ゆっくり待ちましょう」
すでに取次を頼んでから20分は経過している。
しかし未だに影治達は門前で待たされたままで、その事をティアが不満そうに口に出す。
そんなティアをリュシェルが宥める。
未だに影治が慣れていない部分ではあるが、分単位の時間に縛られていた前世日本の生活とは違い、こちらでは1時間単位での遅れは日常茶飯事だ。
誰もが持ち歩ける時計を持っている訳でもないし、公共の場に時間を知らせる魔導具なり時計塔なりが設置されている所は殆どない。
尤も単純に広い敷地内のどこかにいる相手との取次は、時間がかかるという理由もある。
結局影治達はそれから20分程も待たされる事になり、そこでようやく門番から取次結果が伝えられた。
「パルメグラン様の確認が取れました。お会いになるそうですので、臨時の入校許可証を発行します。案内を付けますので、これを持って3号館2階のパルメグラン分室まで向かって下さい」
そう言い終えると、別の門番が「こちらへ」と影治達を案内する。
どちらかというと、案内というより部外者に対する監視のようであったが、影治達は気にせず案内されるままに3号館へ向かう。
学院内はただ学舎が並ぶだけでなく、各所に木や花などが植えられている。
それもただ自然がそのまま残っているのではなく、きちんと手入れが整えられていて、日本庭園よりは西洋の庭園のように直線的な園路や幾何学的な花壇が目立つ。
これらの花壇に咲いている花は、長い冬の間には雪の下に埋もれてしまうのだろう。
だからといって手入れを怠っている訳でもなく、遠くには手入れをしている庭師の姿が微かに見える。
「こちらが3号館になります」
案内人はそう言うと、1歩も止まる事なくそのまま建物の中に入っていく。
街中の建物もそうだが、この学院の建物も多くは石や土、木材などで構築されているようだ。
寒冷地故か壁はかなり厚みがあって、建物全体の強度も高い。
またこれもこの世界の公共施設あるあるだが、天井が非常に高く取られている。
これは高身長な種族への配慮と共に、威圧感や荘厳さを誇示する目的もあるのだろう。
城などは特にそうした傾向が強い。
この3号館も、天井までの高さが3メートルはあるので、よほど背の高い種族以外なら余裕を持って歩けるだろう。
「こちらがパルメグラン分室になります。パルメグラン様、お客様を案内して参りました!」
「ご苦労さまです。どうぞ中へ」
淡々と案内をする門番の後に続き、建物の2階にある目的の部屋にやってきた影治達。
門番が部屋の中の人物から了承をもらうと、おもむろに扉が開かれる。
その開いた扉の先には、特徴的な天使の水色の髪をした男性が立っていた。




