第1027話 フロウヴィウム入国※
ニューホープに帰還した影治達は、そこでグルシャスからフローラに関する報告を受ける。
それはハッキリとした情報ではなかったが、元からリニア同盟の次の目的地は最北の地であるフロウヴィウムに決まっていた。
そこでまずは、数日前に登録したリニア同盟のラストワンのポイントに飛び、そこからドラゴンベースで北に向かう。
最北の国への旅だが、今は季節的に夏なので防寒対策は必要ない。
「それで、フロウヴィウムってどんなとこなのよ?」
移動しやすいように、ラストワンにてゲートキーを登録してはいたが、そこからでも目指す場所へはドラゴンベースでも移動だけで3日はかかる。
その間、一行の中で唯一フロウヴィウムに行った事があるリュシェルに、質問が集中した。
「そうですねえ……。魔術師にとっては過ごしやすい場所ですが、そうでない人にはお勧めできない所です。冬は寒いですしね」
「ふーん。寒いのはイヤだけど、クラスⅩの風魔術が使えるあたしなら、過ごしやすい場所ってことね!」
「ええ、ティアでしたら受け入れられる事でしょう」
「やっぱクラスⅩともなると扱いが変わってとーぜんよ!」
リュシェルが最初に植物魔術がクラスⅩになった時もそうだったが、ティアも風魔術がクラスⅩになってから、若干調子に乗っていた。
しかしカレンはリュシェルの説明の仕方が気になって尋ねる。
「あの、先生。魔術師以外にお勧めできないというのは、どういった意味なのでしょうか?」
「それはですね、あの国では魔術師の立場が高いのですよ。勿論人にもよるのですが、よりクラスの高い魔術を使える者ほど敬われ、逆に自分より下のクラスの魔術しか使えない者を下に見る傾向が強いのです。魔術師の方が何かと優遇されますしね」
「あー、そういう国はあっちにもあったぜ。まあ俺は魔術も使えっから、差別はされなかったけどよお」
「ウチだと、全く魔術が使えねえのはシャウラだけか」
「ん、ししょー。わたし魔術なくてもつよい」
「いや……、強さはこの際関係ねえんだよ。でも魔術師が優遇されるって言っても、そんなに魔術が使える連中ばかりでもねえんだろ? そもそもウチはアダマント級冒険者パーティーなんだから、あからさまにシャウラに因縁ふっかけてくる奴は……いねえだろ」
実際にどの程度魔術師の扱いが良いのか分からないが、魔術師というのはそもそも数が少ない。
各地から集まってきたにしろ、流石に大多数を魔術師が占めるといった事にはならないはずだ。
であれば、魔術が使えない者も多く暮らしているだろうし、そこまで非魔術師をこき使うような事もないだろう。
そう思って発言した影治だったが、自分が言ってる事がフラグになるんじゃないかという想いがよぎり、途中で一度言葉が途切れる。
「そうですねえ。普通に街中で暮らす位でしたら、そこまで問題はないと思いますよ。エイジ様の仰る通り、私達はアダマント級パーティーですしね。ですが、学院内では明確にクラス差が表れていました」
「学院を調べる際は、メンバーを絞った方が良さそうだな」
「そうですわね。その辺りの事も、天翼の方が教えてくれると思いますわ」
フロウヴィウムへと向かう影治達だが、まず最初に向かうのはレイノルズが派遣している天翼のいる所だ。
今回のフローラに関する情報を送ってきた、フロウヴィウムに対する諜報の責任者に当たる人物でもある。
その人物は、フロウヴィウムの王都であるウィテストで暮らしている。
ウィテストは、最北の国であるフロウヴィウムでも更に北に位置する都市だ。
有名な3大学院も、全てこのウィテストに集中している。
「おーーい、国境が見えてきたぜ!」
フロウヴィウムの事について話していると、運転席の方からエカテリーナの声が聞こえてくる。
リニア同盟とフロウヴィウム魔術王国は、関係的には良好という程でもなく悪いという程でもない、ほどほどの関係性だ。
南東部ではラヴェリア闇国とも接してはいるが、険しいラネイル連峰によって区切られているので、直接のやり取りはない。
ラヴェリアはついこのあいだ政変が起こったばかりだが、その前も今もフロウヴィウムとの関係は普通だ。
東にはサムナム蛮国の国土が広がっているが、こちらとも関係性は悪くない。
基本的にフロウヴィウムは魔術オタクが集まるような国なので、他国を侵略するとかそういった争いとは余り縁がない国だ。
「じゃあ皆、面倒だが一旦降りるぞ」
必要があれば関所を無視して移動する事もある影治達だが、街道を移動しているのに態々関所を避けたりはしない。
リニア同盟とフロウヴィウム魔術王国との国境には、互いにすぐ見える位置に両国の関所が建てられている。
そうそう問題など起こらないのだろうが、何か問題が発生した場合は協力態勢を取る事もあるのかもしれない。
「では身分証の提示と、入国の目的を」
リニア同盟からの出国の手続きは、すぐに終わった。
基本的に入国よりも出国の手続きの方が緩いし、獣人が多いこの国ではそもそも取り締まりそのものがその場の責任者次第なところがある。
だがフロウヴィウムへの入国手続きは、厳しいという程ではないが普通に身分証なども検められる。
しかし……
「っ! こ、これは、アダマント級の冒険者の方でしたか」
「ああ。全員がギルドに所属してる訳でもねえが、アダマント級冒険者パーティーのドラゴンアヴェンジャーだ」
影治のギルド証を見た入国審査官が驚きを露わにすると、影治が自分達の所属について説明する。
リニア同盟では冒険者ギルドの活動は控えめであったが、フロウヴィウムではそれなりに冒険者活動も盛んだ。
なので、その後の手続きは割とスイスイと進み、影治達は最北の地へと足を踏み入れる事となった。
フロウヴィウム魔術王国。
それは現存するシャルネイア大陸の国の中では、最古の王国である。
この北の地ではかつて北部魔導連合国が栄えていた。
フロウヴィウムが魔術王国となったのも、その名残と言える。
そしてシャルネイア大陸で唯一、エルフが王族を務める国でもある。
その為、短命種の王が治める国と比べると、1世代あたりの年数が長い。
それが国家が長期的に安定していると、分析する者もいる。
シャルネイア大陸で見ると、王都のあるウィテストが緯度的に最北部になるのだが、実はフロウヴィウムの国土的には更に北の地が存在する。
それが西に浮かぶチチン島で、国土の5分の3ほどはシャルネイア大陸と地続きになっているのだが、残りの5分の2はこのチチン島で構成されている。
ただし、人口の割合的には圧倒的に本土の方が多く、チチン島で暮らしているのは極僅かだ。
それも当然で、チチン島は北西に向かって伸びているので、首都があるウィテストより更に北の地域が多い。
また今は夏だからいいが、冬の時期になると冷たい海を渡る事が出来ず、しばらく行き来が出来なくなる。
そう言った理由もあって、チチン島では余り人口の多い街はない。
「ついに最北の地か。思えば遠くに来たもんだ」
「今がちょーど夏場でよかったわね! まー、それでもやっぱちょっと寒いけど」
「グィィ……」
ティアやカレンなど、南国生まれも多いので、夏とはいえティアは微かに寒気を覚えていた。
そんなティアを気遣い、チェスが早くドラゴンベースに戻ろうと影治に促す。
「おう、そうだな。んじゃあ行くか」
請われるままにドラゴンベースを出すと、順に乗り込んでいく。
近くにいたフロウヴィウム側の関所の人が、その様子を見て驚いている様子を横目に、再び北に向けての移動を再開した。




