第1026話 3大学院
ソウリン達と別れたドラゴンアヴェンジャー一行は、ドラゴンベースに乗って東へと移動していた。
いつものように即ゲートキーで帰還しなかったのは、次の行動の為である。
「とりあえずこの街の近くでいいか」
「そうですね。ここから北に伸びる街道は、フロウヴィウムまで通じてますので」
東へ向かっていた影治達が足を止めたのは、リニア同盟中央部より少し東に進んだ所にあるラストワンという街の近くだった。
リニア同盟には中央部を横断する大きな街道があるが、このラストワンからは北のフロウヴィウム魔術王国に通じる街道が伸びている。
ドラゴンベースから降車した影治は、早速この場所をゲートキーに登録した。
「これでいい。あとはあの街で一泊したら、一旦ホームに戻ろう」
平時であれば、もう少しゆっくり街を見て回ってもよかったのだが、今のリニア同盟は少し前に発生した複数の魔物暴走の影響がまだ残っている。
流通が大分乱れている事もあって、商店の品ぞろえも余りよくない。
なので、影治達はこの街で一泊してから、ニューホープへと帰還する事にした。
「お帰りなさいませ、エイジ様」
ニューホープに帰還すると、いつものように恭しい態度でグルシャスが出迎える。
シャウラやピー助などは、帰還するなり食堂に直行していたが、残った面子はリビングで各々くつろいでいる。
この部屋は、メンバーがニューホープに滞在中に集まって憩いの時を過ごす空間で、ドラゴンアヴェンジャーのメンバーが一人でもホームに滞在している時は、使用人が必ずひとり以上就いて、掃除や用聞きなどを担当している。
部屋はかなり広くゆったりとしていて、ソファやらテーブルやらの他に、ボードゲームなどの遊び道具や、本棚なども設置されている。
キッチンとも隣接しているので、食堂に行かずとも食事をとる事も可能だ。
「おう、ただいま」
「問題ないとは思っておりましたが、ご無事なようで何よりです」
「今回も中々いい経験になったぜ。現地では剣聖とも出会えたしな」
「剣聖……と言いますと、ソウリン・オーダーの事でしょうか?」
「そうだ。俺達はギルド経由で依頼されたが、あっちは族長会議の決定で依頼されて来てたみてえだな」
「エイジ様が依頼を受けたのですから、余計な手出しは必要ないというのに……」
「まあ、相手が破滅級の魔物だからな」
そう言って影治は両手の平を上に向け、肩をすくめた。
普通は災厄級の魔物ですら、手に負えないような化け物なのだ。
その上の破滅級ともなれば、本来は大国同士が協力して事にあたっても、倒せるかどうかも分からない。
影治もその辺の事は理解しているので、他にも助っ人を呼んでいた事に思う所はなかった。
「……確かに、それはそうかもしれません。ところで頼まれていた調査の件ですが、報告が上がって来ております。この場でご報告しても構わないでしょうか?」
「調査ってえと、フローラの件か?」
「はい。といっても余り大きな情報はないのですが……」
ホープヒルキングダムでリョウと出会った影治達は、死を撒くものについて尋ねている。
その際に教えてもらったのが、かつての三強国時代の一角。
北部魔導連合国の魔導王であったフローラだ。
リョウの話によると、死を撒くものについて調査を続けていたので、自分より情報を持っているだろうという話だった。
なので影治はまずフローラと接触してみようと思い、レイノルズや影忍に調査を指示している。
それらの報告がグルシャスの下まで届いていた。
「とりあえず話を聞こう。リニア同盟の件も片付いたし、その後はフロウヴィウムに向かう予定だったからな」
「では報告致します。フロウヴィウムは元々ロチーナとしては関心が薄い国で、派遣されているレイノルズの構成員も少ないのですが、天翼がひとり長期に亘ってかの地に赴任しており、主にその者からの報告になります」
そう前置きをして、グルシャスは調査内容について語りだす。
まず最初に、現地ではフローラが今もなお生きているという事が知られておらず、少なくとも表舞台では活動していないという事が判明した。
そもそもが、今でもなお生きているかどうかは、調査を命じた影治としても半信半疑な所がある。
だが少なくとも、リョウの生きていた時代に調査を引き継いだのは確実で、リョウよりも深い所まで調査をしていた可能性は高い。
現在生きているのかいないのかはともかく、その研究成果が残されている可能性は大いにあった。
「――という訳で、基本的にハッキリとした情報は掴めていないのですが、幾つか気になる話は仕入れる事が出来ました」
「どんな話だ?」
「それはクリスピアーノ魔術学院にまつわる話です」
フロウヴィウム魔術王国は、その名の通り魔術が盛んな国である。
多くの冒険者が、冒険者の国と言われるカウワンに集まるように。
多くの剣士が、シラーシ流の総本山のあるシルディア幕府国を訪ねるように。
そして多くの魔術師が訪れるのが、フロウヴィウム魔術王国である。
そんな彼らが真っ先に訪れるのが、王国内に3つある魔術学院であろう。
その3つの魔術学院は3大学院と呼ばれており、魔術師の間では有名だ。
他にも古くから続く私塾や、3大学院ほどではないが、それなりの規模の魔術学校も複数存在している。
そしてクリスピアーノ魔術学院は、そうした数ある学校の中でも、最古の歴史を持つ。
「その歴史の古さは、現存する国家の中では最古であるフロウヴィウムの建国以前から存在しているとか。もしフローラが死を撒くものについて研究を続けていたのなら、何かしらの記録や資料が残されているかもしれません」
流石にフローラが現役で魔導王を務めていた時代には存在しなかったようだが、魔導王の座を降りてから約200年後に学院が設立されたようなので、グルシャスの言う可能性もありえる。
「クリスピアーノ魔術学院は、私がかつて学んでいた所ですね。確かにあそこには古い資料も沢山ありましたよ」
リュシェルもかつてこの地を訪れ、学んでいた時期があった。
それが奇しくもクリスピアーノ学院だったらしい。
これまで黙って話を聞いていたリュシェルが口を挟む。
「学院内には、一般の学徒には閲覧できない禁書庫もあるそうです。もしそういった所に資料があった場合、閲覧するのは難しいでしょう。それともう1つ気になるのは、昔からクリスピアーノ魔術学院に伝わっている噂です」
「あの学院は古いですからねえ。私が在籍していた時にも、怪談じみたものから幻覚でも見たのではないかというものまで、色々な噂がありました」
「私が報告を受けたのは、クリスピアーノ魔術学院にはハイエルフの亡霊が現れる……というものです」
「ハイエルフの亡霊ねえ……」
「これがただの噂であるならば、わざわざハイエルフにしなくても、普通にエルフの亡霊でも良いはず。そこを敢えて希少な種族であるハイエルフとして伝わっている辺り、フローラと関係があるかもしれません」
「大分こじつけな気はすっけど、他に情報がねえならそこを当たってみるしかねえな」
「申し訳ございません。引き続き調査は続けておりますので、何か判明しましたらご報告致します」
「ああ、頼んだぜ。俺等はここで2、3日休んだら、フロウヴィウムに向かうつもりだ」
影治としては、死を撒くものについて調べるという目的もあったが、シャルネイア最北の国を訪ねる事そのものも目的になっている。
世界を見て回る楽しみという奴だ。
他にも、魔術の本場というのも影治の好奇心を刺激している。
それは日ごろの訓練にも影響を及ぼし、ニューホープでのつかの間の休日の間に、いつも以上に魔術の訓練に熱が入る。
勿論これまでの積み重ねもあるのだが、そうして新たに幾つもの魔術を修得していくのだった。




