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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
37章 新年に向けて

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休むために

勿論、トモエとしても、言い分はある。

此処までの間、既に色々とオユキの休息の為にと、どうすればオユキが僅かにでも体調を戻しやすくなるのかと、散々に相談してきたのだ。

それこそ、オユキが仕事をしている時間以外にも、エステールにあれこれと習っている時間、午睡を行う時間までも含めて。


「幼子の伴侶よ、そのような顔をするでない。妾にしても、幼子に対して過剰と思える環境は確かに用意しておる。そこで暮らすだけで、十分回復はするのじゃ」


そして、トモエがそのように考えるから。

オユキが、トモエのそうした静かな怒りを感じて、表情が曇るから。


「しかし、その方にしても堪え性の無い様子じゃからの。如何に、もう少し早めるのか、その話を行おうというだけの事じゃ」


まったくと言わんばかりに、セツナがこれ見よがしにため息を一つ。

そもそも、オユキのそうした性質を抑えて見せるのが、抑えてみせよと既に幾度かトモエには話しているはずだと、それをオユキには分からぬ様に。しかし、トモエには伝わるように。


「種族の年長として、何やら手があると、そうした話に聞こえますが」

「ふむ。その方が危惧するような反動というのは特にない方法もあるが」


それこそ、セツナがクレドから手を借りていると、語る言葉通りに。

本来であれば己が削られることを良しとせぬだろうに、こうしてトモエとオユキの側に来てからというもの、度々何の気も無しに力を振るっている様子ではある。そして、そこで生まれる結果というのは、オユキが殊更と言う事を差し引いたとしても、何ら痛痒を感じる様子が無い事を考えればと言うものだ。

これまで伝えなかったのは、さて、どういった理屈がそこにあるものかと、それこそ公爵夫人にしても、アイリスにしても何やら少し視線が厳しくなっているのだが。


「そこな炎熱の鳥が話した通りじゃ。妾達の根底には、やはり妄執と呼べるだけの物がある。己の伴侶に、あまりに明確に向ける物がある。己の伴侶に向ける物と、同じだけの物を。妾たちが己の身を捧げるからには、己の心を捧げるからには、と願うものがある」


以前に、この辺りも少し話しておるのじゃがと、そうセツナが告げれば、オユキは心当たりが無いと首をかしげるのだが、トモエとしては思い当たるところがある。


「確か、つながりを生むと、以前に伺ったことが」

「うむ。その事じゃな」


いつぞやに、己の伴侶と定めた者との間に、そのような物を作ると言われた覚えがトモエにはある。


「ですが、今日の事にしても」

「ここ暫く幼子が良く動けておったのは、その方からの働きかけもさることながら、その方らの持つ功績に頼ったものじゃ」

「そういう事ですか」


此処までの間に、セツナからは確かに幾度となく言われてはいたのだ。

功績に頼っていては、オユキの成長には良くないのだと。休むというのならば、功績を外せと。

そして、此処に皆が集まった時にも、セツナからは確かに言われているのだ。それを持たず、きちんと動けるようになれるまでは、と。


「とはいっても、トモエはオユキと違って炎獅子も祖に持っているのよ。貴女達の種族にとっては」

「あの厄介な狐とも違うので、少し難しそうですが、成程。私たちの祖から伝わる炎を、ある程度逃がせているのは、それもあってですか」

「あの、それは、一体」

「最も年若い裔とはいえ、その程度も見えていないというのですか、貴女は」


パロティアと、カナリアの間で何やら少し険悪な空気が流れ始めているのだが、トモエはそちらは一切取り合わずに。


「まさかとは思いますが」

「だからこそ、妾はそこな幼子に何度も文字の切り分けをと、そうした話をしておるのじゃがな」


よもや、そのようなことまで知らないとは考えていなかった。

と、言うよりも、まるでそれこそが常識なのだとでも言わんばかりの態度に、神国で暮らすただ人は首をかしげるばかり。アイリスにしても、何やら、何処か胡乱な者たちを見る目とでも言えばいいのだろうか。


「そういえば、こちらでそのあたり私も確認したことが無かったわね」

「お前たちであれば、祖霊の加護を疑うことなどあるまい」

「私はそうだけれど、私の過ごしていた場所でも少しはいたもの、混ざっていた者たちも。いえ、そういえば、異邦から来たから分からないという話だったものね」

「異邦から来た者たちが分からぬとは、さて、如何なる了見じゃ」

「いえね、この二人に会ったばかりの事なのだけれど」


それこそ、今となっては思い出すのも難しい話、領都で、まだ護衛としてアイリスを頼っていたころの話を改めてセツナに。


「私が鼻で判断しただけだったもの、またそこから細かく調べたのかと思っていたのだけれど」

「妾も、そこな幼子は己が冬と眠りに連なると自覚しておると言うたからこそ、勘違いしていたことでもあるのじゃ」

「トモエにしても、雷と輝き、だったかしら。それに連なると言っていなかったかしら」

「アイリスさんに話した事があったかは定かではありませんが、魔術ギルドでカナリアさんに属性を調べてもらったときに、あの子たちからそのように言われて」


オユキがそのように言えば、この場の者たちの視線が何やらパロティアを相手に縮こまっていたカナリアに室内の目が揃う。


「えっと、それなんですけど、皆さんが魔術の適性があるかわからないとやる気が出ないとのことでしたから」

「検査などせずとも、私達であれば、見ればわかるでしょうに」

「見れば、分かる、ですか」


パロティアの言葉に、カナリアが何やら愉快な顔をしているのは一度置いておき。


「その者たちが魔術を使えるかというのは、己の身の内にマナを通せるかに依りますから、見れば分かるものです」


そして、実に端的な回答がされる。


「その、私たちのようなというのも、今となってはどうかと思いますが、私たちのような者達では、マナを貯めるための器官がといった話を伺ったように」

「あなた達の間では、そのようになっているのですか。マナを貯める場所など、己の根源をはじめ複数あるので指標としてはどうかと思いますし、マテリアルに依存している者達であり、根源へのつながりがあまりに細い者達であれば、そうした指標も一つかとは思いますが、それでは魔術師として大成できませんよ」

「オユキさん。そちらに興味が引かれるのは分かりますが、今はオユキさんの体調の話です」


オユキの意識が、あまりに急に与えられたこれまでと全く異なる知識、新しく、それもカナリアに対して何をおかしなことをという程に、圧倒的な知識を抱えている者に向きかけるのをトモエが制して。それこそが、オユキの抱える悪癖だと少し、オユキへ向ける視線の熱を下げればオユキは覿面に。


「まったく。幼子に対して、同じように言い聞かせればもう少しは治りも早くなろうというのに」

「そればかりは。私としても、あまりに気落ちしてしまうオユキさんを見たくありませんし、その、寧ろ治りが遅くといった話を過去に、異邦の事ですが聞いたこともありますので」

「それを呑んでこそ癒える物もあると、そうは考えないのか」

「いえ、その、仰りたい事は、ですね」


クレドにまで呆れたと言わんばかりに、それこそアイリスから病を司る等と言われていた相手にまで言われてしまえば、トモエにしても二の句が無い。

堪え性が無いと、そう評されているのは、オユキだけではなくトモエもなのだから。


「そのあたり、細かく話をしてみても構わぬのじゃが、何分そこまで時間を取れるようなことでも無かろう。聞かれれば、無論応えるつもりはあるのじゃが、妾が分かるのは妾たちの種族の事ばかり」


無論、己の伴侶に関しても深い理解はあると、視線だけで示したうえで。


「時が奪われてと、そのように聞こえた以上は、幼子たちに限らずこの地で暮らす者たちにはまだ早いと判断されての事であろう」

「不理解を抱えて魔術を、ですか。あまり健全な状態とは思えませんね」

「あの、族長様、魔術というのは」

「私たちの種族が持つ炎も、この世界の枠組みでは魔術です」


何やら、パロティアとカナリアの間でも知識の断絶があり、そこを埋める話し合いに関しては今後行ってもらうとして、トモエは公爵夫人の視線に圧されながら、どうにか話を元に戻す。

元より、トモエにとってもオユキの回復というのが大事には違い無い。


「私のほうで、オユキさんの負担を引き受けるとでも言えばいいのでしょうか。魔術らしきものをいくつか使えるようになったので、その流れで、それ以前からもできると考えて行ってはみたのですが」

「功績を外して行えるというのであれば、それは正しくその方が身に付けた物ではあるのじゃろう。だが、幼子のほうでそれを受け入れるだけの用意が無い状態で行ってしまえば、やはり毒にしかならぬ」

「毒、ですか」

「その方の根源が雷と輝きとは聞いたものではあるし、そこな、今も何やら拗ねておる幼子が妾達の種族の祖たる御方、その先におわす冬と眠りを冠する御方であれば確かにとは思うのじゃが」


そして、カナリアがそうするように、セツナも視線をトモエに向けるようにしながらも、今ここにいるトモエではないどこかを見る様に。

それこそ、トモエが少年たちにこれから教えようと考えている目を鍛える、その先にあるようにどこか茫と、全体を見るかのように。併せて、クレドにしても、その視線を同じようにしながらも、こちらはさらに何やら鼻を利かせる様に数度動かしながら。


「炎獅子、成程、妾の知識にはないのじゃが、確かにその方からは分かり易く炎を感じる。要は、おぬしが自覚なく、学ばずに己からとするのであれば、幼子に向かう物はまずはそれとなるに相違ない」


そして、あまりに端的な結論が、クレドから。


「一時的に回復しているように見えるだけだ。お前の伴侶は、弱るぞ。お前の力を、お前の理解程度で流してしまえば」


トモエが善意で、と言う訳でもなく。

これまでは、己の独占欲で行わなかったと考えていた物。それに気が付かぬ様に、できるのだとどこか気が付きながら行わなかったこと。それを、今ここまでオユキがふさぎ込んでいるから、少しづつ周りが整ってきたからと見せ始めた物を、少しでも軽くなるようにと考えてトモエが行った事。


「故にこそ、幼子に学ばねばならぬと、妾は話しておったのじゃがな。どうにも、幼子の伴侶も学ばねばならぬのじゃが、生憎と妾では教えるのもまた難しい」

「ああ。流石に、それを俺が許しはしない」


独占欲でも何でもない。

己の伴侶が、苦手とする属性を表層に持つ相手に、使い方を教える。

その事実が、どれほどセツナを削るのか理解が有る、そんな相手から。

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ツギクルバナー アルファポリス
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