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女貴族に買われた少年が厳しく可愛がられて、養われます。  作者: beru


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第五十一話 晩餐会で令嬢を持て成したい使用人

「うう、寒くなってきたなあ……」

 ポールが屋敷の使用人として復帰してから、また月日が流れ、いよいよ冬も間近となり、ポールは凍えながら、外で薪割りを行う。

 薪を割るのは慣れていたとは言え、広い屋敷を暖めるだけの、ストーブと使用人や他の客人達のための、料理などに使う薪の数は膨大な物となってしまい、割っても割っても、終わらない薪割りに少しうんざりもし始めてきていた。

「セシリア様が寒くて凍えないように頑張らないと」

 だが、愛する主である、セシリアの為だと思うと、疲労も寒さも我慢出来てしまうのであった。

「はーい、ポールー。元気してるー?」

「フローラ様。こんにちは」

 切った薪を束ねて、整理していると、フローラがまた自動車に乗ってきて、声をかけてきた。

「薪割りしてるんだ。大変ねえ」

「いえ、これもセシリア様のためですし」

「ふーん、使用人の鑑ねえ。偉い偉い」

 と、胸を張って言ったポールの言葉を聞き、フローラも嫌味を込めて拍手を送る。

「やっぱり、変な助け舟を出すんじゃなかったかしらねえ」

「え?」

「何でもない。それより、ポール。今度、セシリアの家で晩餐会やるみたいだけど、私も一応、招待されたわ。接待宜しく」

「は、はい……」

 セシリアが許可してくれるかどうか不安だったが、彼女の要望をこの場で断る訳にもいかず、一先ず頷く。

 後でセシリアに聞いてみるが、ポールもフローラには恩があるので、セシリアが許してくれるなら、出来る限りの恩返しはしたいと思っていた。


「ポール、もう終わった……あっ!」

「げっ。セシリア……」

 フローラとそんな話をしていると、ポールの様子を見に来たセシリアがやってきて、フローラと鉢合わせしてしまう。

「何しに来たのよ、あんた?」

「別に。来ちゃ悪いの?」

「悪いわね。人の屋敷の敷地に勝手に入るなって、何度も言ってるでしょう。私の言うこと、理解出来ないの?」

「ふん、偉そうに。ポール、今度の晩餐会、私の接待よろしくねー」

「あ、待ちなさい!」

 これ以上、セシリアと言い合いしても埒が明かないと、フローラはさっさと立ち去ってしまい、近くに停めてあった、車に乗り込んで、走り去る。

「全く……」

「あの、セシリア様」

「何よ? あいつに何か言われた?」

「今度の晩餐会、フローラ様の接待をしても宜しいでしょうか……?」

「はあ? 駄目に決まってるでしょう」

 恐る恐る、ポールはセシリアにフローラの接待を担当しても良いかと、聞くが、即座にセシリアは怪訝な表情をして、そう答える。

「ですが、フローラ様に頼まれたので……」

「あなたは、あいつの使用人じゃなくて、私の使用人なの。そのことを忘れないでほしいわね。私が駄目と言ったら、それが全て。わかった?」

「はい……」

 セシリアが強い口調でポールに告げると、彼も力なく頷く。

 主人の命令には絶対服従と言うのは、ポールも理解していたが、それでもフローラに恩返ししたい気持ちは変わらず、セシリアを怒らせない範囲で何か出来ないかと、考えていたのであった。


 晩餐会当日――

「こんばんわ、セシリア」

「ええ、こんばんわ。よく来てくれたわね」

 セシリアの屋敷で今年を締めくくる晩餐会が開催され、招待客の貴族や資本家などが、次々とセシリアに挨拶を交わしていく。

 そんな彼女をポールは忙しそうに、料理を運びながら見つめ、ドレスに身を包んだセシリアの美しさに見惚れていた。

「はーい、ポール」

「フローラ様」

 料理をテーブルに並べている最中に、フローラがやってきて、ポールに声をかける。

「ようこそ、お出でくださいました」

「一応、招待されたからね。あんま、気が進まないけど、お父様に行って来いって言われたんで」

 ちょうど、フローラに会えたので、ポールも安堵の表情を浮かべて、彼女に駆け寄る。

「どうぞ」

「あら、ありがとう」

 ポールはワインの瓶を手に持ち、フローラが持っていたグラスに注いでいく。

 最初は苦手だったフローラにも、ポールはすっかり心を許してしまい、彼女と会うのを楽しみにしているほどであった。

「どう、屋敷に戻ってから、上手くやってる?」

「はい。フローラ様のおかげです」

「私、別に何もしてないけどね。まあ、恩に感じてるなら、ありがたく受け取っておくわ」

 ワインを飲み干してそう言い、フローラも小皿に盛ってあった料理を食べていく。

 貴族にしては、雑な食べ方をしていたが、今日は従姉のセシリアの家での晩餐会なので、フローラもいつも以上に気を抜いており、自分の家にいるような感覚でいたのであった。

「ポールも、飲みなさいよ」

「い、いえ、僕はお仕事があるので」

フローラはポールにワインを飲ませようとするが、流石にポールも遠慮し、首を振る。


「良いじゃない、そろそろ酒くらい、覚えないと……」

「良い訳ないでしょ、常識考えなさい」

「む……セシリアじゃない。いたんだ」

「いるに決まってるでしょう、私の家なんだから」

 ワインをポールに注ごうとすると、セシリアがやってきて、フローラから取り上げる。

「ポール、あなた、フローラには近づくなって命令していたわよね」

「あ、あの……流石に挨拶もしないのはちょっと……」

「そうよ、そんな理不尽な命令聞くほうがおかしいわ。招待客を持て成すのも、使用人の仕事じゃない」

「そういう問題じゃないの。全く、ポールも人が良すぎるわ。料理運ぶの終わったら、あなたは屋敷の外の警備をしなさい」

「え……」

「命令よ」

「は、はい……」

 これ以上、フローラに近づけないため、セシリアはポールにホールから追い出すように、屋敷の外の警備を命じ、ポールも仕方なく応じる。

 まだ、フローラと話をしていたかったが、無理に食い下がって、セシリアを不快にさせるのも本意ではなかったため、ポールも渋々、屋敷の外の警備を行うことにしたのであった。


「はあ……セシリア様、どうしてフローラ様と仲が悪いんだろう……」

 警棒を持ちながら、ポールは屋敷の外を巡回し、会場から流れるバイオリンの演奏を聴きながら、溜息をつく。

 もう少し、セシリアとフローラの仲が良ければと思っていたが、二人とも意地を張っているようだったので、どうすれば良いのかと頭を悩ましていた。

「セシリア様、今頃、どうしてるかな……」

 窓から、晩餐会の様子をチラっと覗いてみると、セシリアが招待客の前で、スピーチをしており、彼女の堂々とした立ち振る舞いにポールも改めて、見惚れていた。

 美しく気高く、それでいて、自分にも良くしてくれるセシリアは、ポールにとって女神にも等しく、彼女の為に、一生尽くしたいと言う思いは強くなるばかりであった。



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