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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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世界で一番安らかな眠り

「みんなに聞いてほしい話があるの」


 詩衣が白銀が起こした焚き火を囲みながら旅の仲間達に向かって言った(麦はやはり日中の妖精達との一騒動がトラウマになっているみたいだ。いつも以上に焚き火から距離をとっている)。


「今日は本当にごめんね。勝手なことしちゃって。みんなに、特に太陽にはすごく迷惑をかけちゃって本当に悪かったと思っているわ。それにいっぱいかっこわるいところも見せちゃったし……」

「結果的にみんな無事だったのだから気にしないで下さい」

「と言うか、今さら何だ。お前にはかっこわるい時しかないだろ。バカ女」

「し、白銀! ぼ、僕の方がいつもかっこわるいから大丈夫だよ。そ、そ、それにドロシーのことがいっぱい聞けてより仲良くなれた気がして僕はうれしかったよ」

「わん! わん!」


 そう謝罪する詩衣に麦達はそれぞれの慰め方で気にしないようにと伝えてきた。


「ありがとう」


 そんな三人と一匹の気づかいに詩衣は感謝の意を述べる。


「それでね。私、みんなにたくさん話を聞いてもらって考えたことがあるの。私……このオズの国を救いたい」


 決して大きくはないが、闇夜に響く凛とした声で詩衣が言った。


「正直ね。最初は全然乗り気じゃなかったの。グリンダさんの言葉にうなずいた時も実は西の魔女を倒すということがどういうことなのか、何のためにするのか実感がなくて……。ほら。私、いつもお姉ちゃんと比べられて誰かに期待されるとか、必要とされるとかなかったからさ。だから、『私だからできる』って信じてもらえたのがうれしくて、私でもやれることがあるならやりたいって思ってうなずいただけだったの。……でもね。今は違うわ」


 詩衣はそう言うと麦、白銀、太陽、そしてトトの顔を順番に見回す。


「あなた達に私の弱いところを聞いてもらって、それでも特別って言ってもらって私にとってこのオズの国がとても大切な場所になったの。だって、私にとって誰よりも特別で大好きなあなた達と出会えた場所ですもの。だから、私は今心の底から思ってる。このオズの国を守りたいって。西の魔女を倒してオズの国の平和を取り戻したいって……!」


 詩衣はまっすぐな瞳でそうはっきりと言い切った。

 今まで他人に言われるまま、周囲に流されるままに生きてきた詩衣が初めて自分で決めた正真正銘自分の意思だ。その言葉の端々からは以前の詩衣は持っていなかった強い決意が感じられた。


「でね。妖精達の話が本当ならこれからもっと西の魔女の攻撃は激しくなるはずだわ。それでもこれからも私と一緒に来てくれるように改めてお願いしたいんだけど……」


 自分に自信が持てるようになってもやっぱり詩衣は素直に頼みごとをするのが苦手なままみたいだ。

 急に語気を弱めて、言いづらそうに話す。


「言ったじゃないですか。私はどこまでもドロシーさんについていきますよ」

「ここまで来といて今さらだろ」

「ぼ、僕何か役に立てるかわからないけど……ぼ、僕はいつもドロシーと一緒だよ!」

「わん! わん!」

「みんな……ありがとう!」


 そうあたりまえのように即答してくれる仲間達の言葉に、やはりどうやっても目もとを濡らしてしまう液体を乱暴にぬぐうと、詩衣は満面の笑顔でお礼を言った。


「そうと決まれば俺とかかしが見張りをするからお前らは早く寝ろ。あと西の魔女の城までどれくらいの距離があるかは知らないが、いつ奴と戦うことになってもおかしくない。朝は早いぞ」


 白銀が詩衣達にそう就寝を促す。


「わかったわ。トト。おいで」

「わん! わん!」

「太陽。お邪魔するわ」

「ど、どうぞ」


 詩衣はトトを抱き寄せると、ふかふかの太陽のお腹を枕にしていつものように麦が用意してくれた枯れ葉の布団に潜り込んだ。


「そういえば、ドロシーさん。妖精さん達にもらった粉は使わないのですか?」


 「おやすみ」と目を閉じようとしていた詩衣に麦が訊ねる。

 すっかり忘れていたが、詩衣は安眠することができるというあの花の花粉を妖精達からもらっていたのだ。


「うん。妖精達には悪いけど、使わなくてもぐっすり眠れそうだから。私、文明国にいた時は寝るのがあまり得意じゃなかったの。布団に入っても色々考えちゃってなかなか眠れなくて。やっと眠れても嫌な夢ばかり見て起きちゃってたからいつも眠りが浅かったわ。でも、この世界に来てからは毎日ぐっすり。あれだけ寝るのに苦労していたのにこっちに来てからは横になったらすぐ眠れるわ。ふぁ~あ。不思議なことに危険な敵の本拠地なはずなのに、今日だって今こう話している間にも眠れそうよ。それにね。何だか今日はとびきりいい夢が見れそうな気がするの。これもあなた達がいるおか……げ……ね……」


 詩衣はそう言いながらも本当にすやすやと眠り始めてしまった。


「おやすみ」


 仲間達はそんな詩衣に優しく就寝の挨拶をする。

 世界一安心な寝床で眠る詩衣の寝顔はとても安らかだった。

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