かけがえのない時間
「良かった! ご無事だったのですね!」
元の川べりへと戻ってきた詩衣達に女王ネズミが駆け寄った。
「心配してくれてありがとう。あなた達も無事で良かったわ」
「はい。ブリキさんとかかしさんが妖精達を足止めして下さったおかげです。ライオンさんも無事ですよ。まだあの花の花粉が抜けきらないみたいで寝ていらっしゃいますが、風通しの良い場所に寝かせているのでそろそろ起きると思います。あそこにいらっしゃいますわ」
「太陽!」
詩衣は女王ネズミが指し示す先へと走る。
太陽は女王ネズミが言う通り木陰の風がよく吹く場所で荷車に乗ったまますやすやと眠っていた。
「ケガはないみたいね。良かった。女王様! ネズミさん達! 太陽を助けてくれて本当にありがとう!」
眠っている以外は特に見た目に変化のない太陽に胸をなで下ろしてから、詩衣はネズミ達に向かって深々と頭を下げる。
「いえいえ。私はこの命を助けてもらったご恩を返させていただいただけですから。それではご用が済んだみたいなので私達はそろそろお暇させていただきますね。またご縁がありましたらお会いしましょう。さようなら!」
女王ネズミはそう言うと草むらにひらりと消えていった。
その後を追ってあれだけいたネズミ達もあっという間に姿を消す。
「ありがとうー!」
「ん……」
詩衣がネズミ達のいなくなった方向にそうお礼を言っていると、その声に反応して太陽がわずかに身動ぎをした。
「太陽!」
詩衣は慌てて太陽の顔をのぞきこむ。
「……ん? あ、あれ? ぼ、僕どうしたんだろ? い、いつの間に眠っ……わわっ!」
ぼんやりとした表情で辺りを見渡していた太陽は、突如襲った衝撃に驚きの声をあげた。
「太陽! 良かった! 目を覚まして本当に良かった! 私のせいでごめんね!」
太陽の目覚めに歓喜した詩衣が彼に抱きついたのだ。
「ド、ドロシー! い、い、いきなりどうしたんだい!?」
「私のせいであなたは西の魔女の悪い魔法がかかった花の花粉の被害に遭って、今まで眠っていたのよ! 本当にごめんね!」
太陽はそう慌てたが詩衣は構わず、謝りながら彼をぎゅっぎゅと抱き締め続けた。
「ほら! いつまでそうやっている? 今日はもう日が暮れて先へは進めない。早く野宿する準備をするぞ」
そんな二人に白銀がキラリと一番星が見え始めた空を指さしながら声をかける。
「白銀さん。嫉妬ですか? 私で良ければ空いていますよ。僭越ながら代わりに抱きしめさせていただきます」
「い、いらん! 誰が嫉妬だ! というかやっぱりこういう時だけ名前を間違えないし!」
そう実際に腕を広げる麦に焦ったのか、白銀はいつもより勢い良く突っ込んだ。
「はははー! 白銀が照れてるー!」
「照れてなどいない!」
「わん! わん!」
「し、白銀が珍しくいじられキャラだ……」
「黙れ! へたれ!」
「ひ、ひどい……!」
「こら! 太陽にあたらない!」
「うるさい! バカ女! もとはと言えばお前が!」
「何よぉ~!」
――そういつまでも続くたわいのない会話の応酬が、そんなに久しぶりではないはずなのになぜか懐かしく大切に感じて、詩衣は今この瞬間がとても幸せだなと心の底から思った。




