西の魔女の猛攻
「う~ん! よく寝た!」
ぐっすりと眠り、十二分に睡眠をとった詩衣がそうぐいっと背筋を伸ばす。
詩衣達は西の魔女の城を目指して西へ西へと歩を進めいた。
「こら。気をぬくな。ここから先はより西の魔女の支配が強い土地だ。自分でも言っていただろう。これから先、更に攻撃も激しくなるはずだって」
「わかってるわよ! 背伸びするぐらいいいじゃない! あいかわらずあんたは体も頭もカチコチね!」
すっかり元の調子を取り戻した詩衣が白銀に言い返す。
「まぁまぁ」
「ケ、ケンカしないで!」
「ふん! でも、グリンダさんも適当よね。太陽が沈む方向を目印にひたすら西へ進めなんてアバウト過ぎるわ。妖精達の言う通りなら道は間違えてはいないと思うんだけ……」
「わん! わん!」
そう一行がいつも通りの会話を賑やかに繰り広げていた時、トトが何かを警戒するように吠えた。
見ると詩衣達の頭上の空を雲とは違う何か真っ黒い物体が漆黒に染め上げていたのだ。
「えっ! な、何あれ? カラス!?」
それはカラスの大群だった。
日の光さえ遮る程の大勢のカラス達がガアガアと喧しく騒ぎながら、鋭い瞳で詩衣達を睨みつけていたのだ。
「き、きっと西の魔女の手下だよ!」
「えっ! 手下って……きゃあ! 何かこっちに来るわ!」
詩衣が悲鳴をあげた。
その大量のカラス達が詩衣達目掛けて突然一斉に落下してきたのだ。
詩衣は反射的に身を守るために頭を抱えて縮こまる。
「はいはい。私に任せて下さい。私はかかし。カラスさんのことならお任せを」
そうのんきに言いながら、そんな詩衣達の前へと麦がぐいっと進み出た。
「ぐえっ!」
やはりカラスという生き物はかかしが苦手なのだろうか。
カラス逹は麦を見てまぬけな声を出して慌てると、ピタッと急停止した。
「すごいわ! 麦!」
詩衣は喜んだが、一羽だけ麦を見てもまったく動じないカラスがいた。
「動揺するんじゃないよ! そいつはかかし! 藁でできたただのまぬけさ! どうせ何もできないんだ! そんな奴相手に怯えるんじゃない!」
きっとカラス達の中では一番年配の、相談役的存在なのだろう。
少し羽の艶が悪く、色もグレーがかったカラスがそうガラガラな声で仲間達を叱咤する。
「ガア!」
年寄りカラスにそう諭されカラス達はまた四人と一匹に襲いかかろうとした。
「きゃあ!」
「かかしはかかしでも私は動き考えるかかしなんです。なので、わずかな隙で十分ですよ!」
麦はそう言うと、素早い動きでカラス達に向かって何かをバッ! と勢いよくばらまく。
「あっ! あれは妖精からもらった花の花粉!」
詩衣が驚きの声をあげる。
そう。麦がカラス達にかけたのはあの妖精達がくれた催眠効果があるという花の花粉だった。
「ぐぇ~」
「妖精さん達の言う通りですね。皆さんいい寝顔をしてらっしゃいます。どうぞごゆっくりお休み下さい」
花粉を浴びてぼとぼとと地面に倒れ眠るカラス達にそう麦は軽やかに手を振った。
「すっごい! 麦! かっこいい!」
「わん! わん!」
「ま、また何か来たよ!」
「きゃあ! ハ、ハチだわ!」
詩衣がそう歓喜したのもつかの間、次に現れたのはブンブンと羽音を響かすハチの大群。
一般的なハチと違い黄色と黒のしましまではなく、全身が真っ黒だ。
「きゃあ! あんなのに刺されたら、一発であの世行きよ!」
「俺に任せろ」
今度はぐいっと白銀がみんなの前へと歩み出る。
「白銀!? 危ないわ!」
「バカ女。忘れたのか? 俺はブリキだぞ。こんな虫の針などいくら毒があろうとまったく通用しない。ほら。ハチども。好きなだけ俺を刺せ。その貧弱な針で刺せるものならな」
彼の挑発にのって「ブブン!」ともともとうるさい羽音を更に大きくしながら、ハチ達が白銀に一気に襲いかかる。
たらりと毒の液がたれる尖った針を白銀の体にぶすぶすと勢いよく突き立てていくがしかし、白銀の硬いブリキの体には敵わない。
「ブン……」
針が折れて弱ったハチを白銀は軽々といなしていった。
「殺しはしないさ。お前達はここで大人しく反省していろ。次は刺していいものと悪いものをもっと考えられるようにな」
白銀が斧の刃先ではなく面で気絶させたハチ達にそう言い捨てる。
「白銀もすごーい!」
「わん! わん!」
「ドロシーさん! また何か来ました! 今度はオオカミさんです!」
「ワォオオーーン!」
気味の悪い遠吠えと共に今度出現したのは、真っ黒な毛のオオカミの一団だ。
鋭い牙の間から赤い舌をのぞかせて詩衣達を食べようと狙っている。
「今度はオオカミ!? 次から次へときりがないわね!」
「だ、大丈夫。つ、次は僕の出番だ。ぼ、僕が百獣の王ってところを見せてあげるよ」
太陽はそうみんなの前へと出てくると、すぅー! っと息を目一杯吸い込んだ。
「ガォオオオオオオオオーーー!!!」
「きゃう!?」
太陽が肺に貯めた空気をすべて使って大きな雄叫びを上げると、「くぅん! くぅん!」とオオカミ逹はまるで子犬のような情けない声をあげて一目散に逃げ出した。
「ど、どうだ! ぼ、僕が百獣の王ってことを思い知ったか!」
「やるじゃない! 太陽! 良かった! これで敵は一段落したみたいね」
詩衣が言う通りオオカミ達が去った後は新手は来ず、詩衣達は怒濤の襲撃からやっと人心地つくことができるようだ。
「……変ですね。先ほどから私達は西の魔女の手下であるカラスさん、ハチさん、オオカミさん達が本当にぎりぎりに近づくまで彼らの存在に気づけていません。テテさんが吠えて下さらなければ、実際に襲われるまで気づくこともできなかったでしょう。まるで何もないところからいきなり出てきているみたいです。それにそろそろ彼らがやって来た西の魔女の城の姿が見えてきてもおかしくないはずなのですが、私の目でさえそれらしき影一つ映りません。……これはもしかしたら魔法の一種かも知れませんね」
ほっと一息ついている詩衣達に麦が真剣な顔で言った。
「だから、トトだ。魔法? 魔法で西の魔女は隠れていると言うのか?」
「はい。でないと、現状を説明することができません」
白銀の疑問に麦は深刻そうにうなずいた。
「で、でもそうだったら、ど、どうすればいいと言うの? ぼ、僕達の中にそんな魔法を解くことのできる人はいな……」
「今度は私の出番ね」
太陽の発言を遮って詩衣はそう言うと、みんなの前に進み出た。
そして、何もない空間に向かって大きく足を降り下ろす。
バリバリバリーー!
何かが割けるような激しい音がして今まで何もなかったはずの場所に大きな城の姿が現れた。
「やったわ! きっとあれが西の魔女の城よ!」
詩衣がうれしそうにその城を指さす。
どうやら魔法の靴の力で西の魔女の魔法を破ることに成功したらしい。
「ドロシーさん! すごいです!」
「ドロシー! かっこいい!」
「ふん! どうせその靴の力だが……まぁ、よくやったな」
「わん! わん!」
「よしっ! このまま西の魔女のところまで一直線よ!」
詩衣は西の魔女の城を目指して駆け出した。




