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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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黄金色の花畑

「何よ! 何よ! こうなったら防げないように花の花粉を直接嗅がしてあげるわ! その後にかかしとブリキにまた魔法をかければ私達の勝ちよ!」


 言葉によって動揺させる作戦が失敗したことを悟った妖精達はそうヒステリックに喚くと、花の花粉が詰まった小瓶を片手に詩衣に再度襲いかかる。


「させない!」


 詩衣は魔法の靴を履いてから初めて一〇〇パーセント自分の意思で足を振り上げた。


「っ……!」


 びくりと身をすくませる妖精達を無視して詩衣は花畑に向かって思いっきりかかと落としを繰り出す。


パーー!


 詩衣の真っ赤な靴が地面にめり込むと、目映い輝きを放って花畑が光り出した。


「は、花畑の色が変わりました……!」

「花の色が赤から黄色になったぞ!」


 麦と白銀が驚きの声をあげる。

 そう。謎の光が消えた後の花畑は、先ほどまでの不気味な血のような深紅の色ではなく、もとの美しい黄色の花へと戻っていたのだ。


「な、何で? 光るの? 色が変わるの!? あっ……!」


 自分でやったことのはずなのに一番激しく動揺していた詩衣はあることに気がついた。


「うわぁ! 夕焼けの反射で花びらがキラキラして、黄色というより黄金色に見える。きれい……」

「「「ありがとうございました!」」」


 そう目の前の光景に見とれていた詩衣に感謝の言葉を述べる者達がいた。

 あの三人の妖精達だ。

 先ほどまでの好戦的な顔をなぜかすっかり穏やかなものへと変え、詩衣に向かって深々と頭を下げている。


「いえいえ。こちらこそありがとうございました……って何で! あなた達さっきまでガンガン私達をこの花畑のご飯にしようと狙っていたじゃない! それなのに何で急にそんな友好的な態度になったの!? ゆ、油断させてだまそうったってそうはいかないんだからね!」


 詩衣はまた妖精達が仕掛けてきた新たな罠だと思い、警戒心を全開にして彼女達から距離を取った。


「だまそうだなんて! 助けてくれた恩人にそんな失礼なことしませんわ!」

「助けてくれた恩人……? いったい何のことよ?」


 正直、この妖精達とは出会ってから今までの短い間にとても親しい関係が築けたとは思えない。

 詩衣はまだいつ何をされてもいいように身構えたまま、このまったく心当たりのない感謝に首をかしげた。


「実はこの花畑も私達も西の魔女に魔法をかけられていたのです。あなたのおかげでその悪い魔法が解け、本来の姿を取り戻すことができました」


 そう語る妖精達は憑き物の落ちたようなすっきりとした顔をしている。

 どうやら西の魔女の魔法にかかっていたというのは本当の話らしい。


「だから花の色も変わったのですね。コウノトリさんもこの花畑の元の色は黄色だったとおっしゃっていましたから」

「はい。これがこの花畑の本来の姿です。美しいでしょう?」


 彼女達にとって自分達の守る花畑は大切な存在なのだろう。

 麦の言葉にうなずくと、妖精達は自慢気に胸を張る。


「もう顔の布を取っても構いませんよ。今のこの花にはまだ催眠効果はあれど、それはわずか。よっぽど顔を近づけてにおいを嗅いだり、この瓶の中に入っている粉のように花粉を抽出したものでも被らない限りは眠くなることさえありません。たとえ花粉を誤って吸ってしまっても数刻眠りにつくだけで、西の魔女の魔法がかかっていた時のように永遠に眠りにつくことなんて絶対にありませんよ」

「……本当だ! さっきはこの花のにおいを少し嗅いだだけでも眠くてしょうがなかったのに今は全然だわ! 本当の本当に悪い魔法が解けたのね!」


 詩衣は恐る恐る顔の布を取って辺りに漂う甘い薫りを吸うと、あくび一つもらさずに言った。


「あなた達に魔法を解いてもらわなければ私達は西の魔女の命令のまま悪行を行い続けるところでした」

「本当に何とお礼を言っていいのか」

「せめてもの恩返しにこれを」


 そう妖精達が差し出すのは詩衣達に先ほどまで投げつけようとしていた小瓶。


「これには先ほども述べたようにこの花の花粉の催眠成分だけを抽出したものが入っています」

「西の魔女の魔法が解けたのでこの瓶の中の粉の効果も薄くなっていますが、それでも少し嗅がせるだけで確実に数時間は相手を眠らせることができることをお約束しますわ」

「これで嫌な奴らを眠らせてやればいいのよ!」

「「「確かにー!」」」

「本当に魔法が解けた!? あなた達全然懲りてないわね!」


 妖精達は西の魔女の魔法にかかっている、かかっていないは別にして元来いたずら好きな性格のようだ。

 きゃはは! と楽しそうに笑う妖精達に思わず詩衣は突っ込んだ。


「もちろん解けていますわ!」

「私達のするいたずらは楽しいいたずらだけですもの!」

「悪質なものはいたしません!」

「楽しいいたずらって……。楽しいのはあなた達だけなのでは?」


 そんな妖精達を詩衣はうろんげに見る。


「冗談はさておき……」


 そこで妖精達ははしゃいでいた雰囲気を一変させ、急に真面目な顔をした。


「わざわざ西の国のこんな場所まで来たということは、あなた達は西の魔女を倒すおつもりなのですよね?」

「はい。一応……」

「実はあなた達が越えた川からこちら側は西の魔女の支配がより強い地域なのです。これから西へ進むほどきっと西の魔女の妨害も一層激しいものへとなるでしょう」

「不安で眠れない夜もあるはずです。そんな時にこの瓶の中身をお使い下さい。きっと安らかな眠りが訪れるはずですわ」

「いい夢が見られるよう祈りを込めて魔法をかけておきましたので。私達にはこんなことしかできませんが……」

「ううん。十分よ。ありがとう」


 詩衣は妖精達の厚意に感謝してありがたく小瓶を受け取る。


「いくら西の魔女に操られていたとはいえ、私達が罪を犯したことには変わりありません」

「この花畑を守りながら犠牲になった方々を弔っていくつもりです」

「時々いたずらしながらね!」

「ほどほどにね!」


 詩衣達は「「「どうかご無事でー!」」」と妖精達に手を振られながらやっと花畑からの脱出に成功した。

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