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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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川の真ん中で起きた悲劇

「うわぁ~! すごい! こんな短時間に作ったとは思えないくらい立派ないかだね」


 詩衣は完成したいかだの出来に思わず感嘆の声をあげた。

 てきぱきと働いたので、いかだは一時間もかからずに出来上がった。

 麦が存外器用だったため、その仕上がりはとてもこんな短時間では作ったとは思えないくらい立派な物だ。


「見て下さい! オールもちゃんと作りました。これでいかだの操縦も完璧です!」


 そう言いながら麦が披露するのはいかだを操るためのオール。

 木を削って麦が作り上げたのだ。


「すごい! すごい! 麦って運動神経はないけど、手先は本当に器用ね! ……でも、そのオールちょっと長すぎない?」


 麦の背丈よりも長いオールを見て詩衣が言った。


「大は小を兼ねるです。大丈夫ですよ」

「そうかなぁ……」

「や、やった! う、浮いたよ!」

「よし。あとは全員が乗っても沈まないかどうかだな。この川は流れが早い。俺がぎりぎりまで押さえてはおくが、乗ったらお前ら振り落とされないようにしっかり掴まっていろよ」


 そんなやりとりをしていた詩衣達にいかだを押して川に浮かべ、みんなが乗る準備をしていた太陽と白銀が声をかける。


「わぁ! ありがとう! 二人とも! ……でも、本当にみんなが乗っても大丈夫なのかしら? ちょっと怖いんだけど……」

「だ、大丈夫。あ、安全かどうか見るために一番重い僕が最初に乗ってみるよ。ぼ、僕が乗っても平気そうだったら、み、みんなも乗って」


 太陽はそう言うと、恐る恐るいかだに足を載せた。


「ひ、ひゃっ!」


 太陽の重みで一瞬ぐらりと傾いたが、それでもいかだは沈むことがなかった。


「大丈夫みたいですね」

「う、う、うん。ゆ、揺れてちょっとひやっとしたけど、平気みたいだよ。さ、さぁ。み、みんなも乗って」

「ありがとう。太陽。よし! 勇気を出して私達も乗るわよ。トト」

「わん! わん!」


 詩衣はそうトトを胸にしっかりと抱くと、いかだになるべく振動を与えないように慎重に乗り込む。


「ふぅ~。大丈夫みたいよ。ほら。麦も白銀も乗って」

「はい! よっこらせっと!」


 詩衣達が乗ってもびくともしなかったいかだは軽い藁の体を持つ麦が乗ってももちろん何の問題もなかった。


「よし。手を離すぞ。振り落とされないようにちゃんと掴まっておけよ」


 最後に白銀がそう言うと、いかだに乗り込み陸から手を離す。


「きゃあ!」


 詩衣が一瞬がくんと揺れた足場に悲鳴をあげたが、その後いかだは何の問題もなく川を下り出す。


「はぁ~。一瞬どっきりしたけれど、沈まなくてよかったわ。それにしても思った以上に流れが早いわね。どこか変なところに流されちゃいそう……」


 詩衣が想像以上のスピードで川を下るいかだに不安な声を出した。


「大丈夫です。こんな時にこそこのオールです」


 麦はそう彼の自信作であるさっきのオールを取り出すと、水の流れに負けぬように力強く漕ぎ出す。


「やった! だんだん向こう岸まで近づいてきたわ!」


 麦が漕いでくれたおかげで徐々にだが、近づく目的地に詩衣が喜びの声をあげる。


「お任せ下さい。とにかく向こう岸に着かなくちゃいけませんから……ね! わわっ!」


 麦が彼には珍しく慌てた声を出した。

 向こう岸まであと半分のところまで来たところで、麦が力を入れ過ぎたオールはなんと! 川底の泥へと突き刺さってしまったのだ!


「麦!」


 詩衣が咄嗟に彼の服の端を捕まえようとしたが間に合わず、麦はオールごと激流の真ん中に取り残されてしまった。


「みなさん! ごきげんよぉ~~!」

「ご機嫌ようじゃない! 麦のバカ! やっぱりオールが長過ぎたんじゃない!」


 垂直に川に刺さるオールの上からのんきに手を振る麦に詩衣が怒鳴る。

 そうこうしている間にもいかだは進んでいき、麦との距離を開いていく。


「どうしよう! このままだと、どんどん麦と離されちゃう! でも、オールがなくなっちゃったから、戻ることも向こう岸に着くことさえもできないわ……」


 遠ざかる麦の姿を見ながら、為す術のない現状に詩衣は途方に暮れた。


「み、みんな! ぼ、僕の背中に乗って!」


 そんな絶望的な現状の中、太陽がスクっと立ち上がって言う。


「太陽!?」

「だ、だいぶ岸に近づいた今なら跳べる。だ、だ、大丈夫。ま、前とは違って落ちても水だから怖くない。ぼ、僕、と、跳ぶよ」


 たとえ崖の時とは違って地面に叩きつけられることはないとはいえ、今度は激しい水の流れにどぼんだ。

 それにただでさえ太陽はかなづちだと先ほど宣言していた。

 大丈夫と本人が主張していても、恐怖心を完全にぬぐいきるのは不可能な話だろう。


「……わかった」


 自分自身も泳げない詩衣には太陽が今感じているだろう恐怖が痛いほどにわかった。

 しかし、太陽の決意を信じ、彼の体の震えは気づかないふりをして、詩衣はしっかりとうなずく。


「じゃあ、お願いね! 太陽! トトは絶対に暴れちゃだめよ! 白銀もちゃんと太陽につかまっていてね!」

「み、みんな乗ったね! い、行くよっ!」


 そう言うと、太陽は後ろ足に力を込め、大きく跳躍した。


「くっ……!」


 ジャンプした瞬間、大きくいかだが揺れて、太陽の体勢が揺らぐ。


「頑張れ! 太陽!」

「くっそぉーー!!!」


 詩衣の声援に太陽は残りの力を振り絞ると何とか陸に前足を乗せることができた。

 そのまま前足の力で太陽はぐぐっと下半身を引き寄せる。


「はぁ! はぁ! ち、着地成功……!」


 息をきらせた太陽が四肢を大地に投げ出す。

 詩衣達の後ろで、先ほどまで彼女達が乗っていたいかだだけがどこまでも流されていく。


「あ、危なかった……」


 あっという間に視界から消えていったいかだを呆然と詩衣は見送った。

 それだけ間一髪の状況だったのだ。


「それにしても太陽! あなたすごい! お手柄だわ!」


 しばらくして落ち着いた詩衣が寝転んだままの太陽の頭を目一杯なでた。


「へへへっ!」


 詩衣にぐしゃぐしゃとたてがみをかきまわせられながら太陽がうれしそうにはにかむ。


「こら。いつまでそうしているつもりだ。早くかかしのところに行くぞ」


 いつまでもじゃれあっている詩衣と太陽に白銀が言う。


「うん。でも、麦のところまで行ってから、麦をどう川の真ん中から助けよう……。いかだは流されちゃったし、太陽にジャンプしてもらっても太陽がしがみついた時点でオールが倒れちゃったら、それこそ二人ともアウトよ」

「どうしたのですか?」


 う~んと麦の救助方法について頭を悩ます詩衣達の頭上から声をかける者がいた。


「誰! ……って、鳥!?」


 それは大きな白い翼とくちばしを持った鳥。

 昔、絵本で見たことがあるから詩衣は知っている。

 コウノトリだ。


「どうかしたのですか? 私でできることがあればお手伝いさせていただきますが?」


 どうやらこのコウノトリはとても面倒見のいい人物(鳥物?)らしい。

 その大きな羽で優雅に飛んだままそう親切にも申し出てくれた。

 コウノトリの力が必要かどうかはわからないが、その厚意を無下にするいわれもない。


「私達の仲間のかかしがいかだでそこの川を横断する最中にオールが川底の泥にとられ、一人川の真ん中に取り残されてしまったのです。ここよりもっと上流にいるのですが、川の真ん中からどうやって助けていいのかわからなくて」


 詩衣は簡単にコウノトリに自分達が現在直面している問題を説明した。


「良ければ私がそのかかしさんをお助けしましょうか? 私ならこのように飛ぶことができるので川の中であろうと問題なくオールのところにまで行って、かかしさんを助けることができます。まぁ、私が運べないほどかかしさんが重たければ無理ですが……」

「ほ、本当ですか!? ぜひ! ぜひ! お願いします! 大丈夫! 麦は全身が藁でできているからとっても軽いんです! きっとあなたの立派な翼なら運べると思うので、どうか麦を助けてあげて!」


 コウノトリの提案は詩衣達にとって願ってもないものだ。

 詩衣は一も二もなくそのコウノトリの優しさに飛びついた。


「もちろんですわ」


 そう快くうなずいてくれたコウノトリとともに詩衣達は急いで麦のもとへと向かう。

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