第98話 もう”様”はつけないで
生まれて初めてのキスを、リスリーとした。
いや、したって言っていいのだろうか……?
彼女が俺の意志を無視して一方的に自分の罪ばかりを口にするから、勢いでしたんだけど。
俺は彼女とキスした瞬間。
本能の部分で
(あっ、この子だ)
と思った気がした。
……だいぶ前に聞いた話だけど。
キスした瞬間、気持ちが冷めたり、逆に燃え上がったりする場合があるって話。
それで気持ちが燃え上がる場合。
どうもそれは、相手が自分と子供を作る場合に最適の相手の場合に本能が教えてくれるサインらしい。
そんな話を、前に聞いたことがある。
最初俺は「そんなこと、ホントかよ」と半信半疑だったけど。
……どうも俺にとっては本当だったみたいだ。
リスリーにキスした瞬間。
俺は彼女のことがもっと好きになった。
愛しくなった。
そしてそれは彼女の方も同じだったみたいで。
俺のことを突き飛ばしたり離そうとしないで。
そのまま抱き締めてくれたんだ。
そして。
だいぶ長いことキスをしていた気がする。
唇を離したとき。
俺は全力疾走をした気分になっていた。
体力は減ってるはずが無いんだけど。
気分的に。
互いの顔が間近にあって。
息が当たり前のように掛かる距離。
近いなんてもんじゃない。
すぐ目の前に、リスリーの顔があって。
彼女の表情は熱っぽくて
見ていたら
『ホシイ』
そう頭の片隅に、この目の前の女性が欲しいって言葉が浮かんだ気がした。
あくまで気がしただけだけど。
俺の方も彼女を抱き返した。
そして今度は彼女の方から俺とキスしてくれた。
俺もそのまま、心のままに
彼女に気持ちをぶつけた。
……
…………
だいぶ時間が経った気がする。
正確に時間を計ったわけじゃないけど。
「……あの店に向かったとき、こうなれるとは思って無かったです」
ポツリと。
リスリーは俺の耳に囁くように呟いた。
まあ、そりゃそうだろうな。
決着はつくだろうけど、それはおそらくハッピーエンドじゃない。
自分がとんでもない奴だと俺に思われて。
そして自分が抱えて来た想いが永遠に叶わなくなる。
諦めるしかなくなる。
自分で自分にとどめを刺す結果。
そうなるのがおそらく自然だろ。
それがリスリーの予想だったはずだ。
でもそれがこうなった……。
「俺もそうだよ」
リスリーの言葉にそう短く返し。
彼女の手を取り
「行こう」
とりあえず帰ろう。
そう促す。
だけど彼女は俺に引っ張られながら
「マサヤ様」
そう言って来たので。
俺はそこで足を止めて
振り返らず
こう言った。
「これからは様はつけないでくれ」
だって恋人なんだろ?
だったら様付けは変だろ……!
俺とキミは一緒なんだから。
対等なんだから。
俺のそんな思いは
少しだけ時間を置いて
「マサヤさん……」
伝わったみたいだった。
……呼び捨ての方がもっと嬉しかったけどね。
でも、いきなりそれは多くを求めすぎかもしれない。
「帰ろう」
「はい」
そう言葉を交わし。
俺たちは路地裏から歩き出した。
そして2人で表通りに出たとき。
俺は何だか……
外の世界が違って見えるようになった気がした。




