第92話 リスリーは違うはず
「この文章の大雑把な意味は、私は怒りました、ですよ。そこに修飾する意味で彼の食べ方が汚いと」
「ああ、うん」
リスリーの指導を聞きながら、俺は紙にメモを取る。
……正直、少し落ち着かなかった。
リスリーが香水をつけて俺の部屋に来た。
そのせいで、少し思うことがあったんだ。
『普通、女の子は男の子の部屋に1人では入らないよ』
岩戸さんに言われた言葉が頭の中に浮かんできて。
消えない。
そんなことは知ってるよ。
そう脊髄反射で言ったけど。
俺はそのとき、リスリーのことは考えて無かった。
何故って彼女は俺の従者だからだ。
女は男の部屋に1人では入らない。
それが一般論だとしても
対象を全ての女性に拡大するのは違うだろ。
例えば姉とか。妹とか。
それは別に身の危険を考えなくていいわけだから当然で。
警戒する方がおかしい。
そしてリスリーの場合は俺の従者で。
彼女は俺の要望を基本的に全部受け入れないといけない立場にある。
あくまで「立場的な問題」で。
だからさ……
言っちゃなんだけど。
仮に彼女に「エロいことをさせろ」と命令したとして。
その場合、おそらく彼女は拒否しないというか……
立場上、できないと思う。
無論、あまりにも卑怯だから言わないけどさ。
でも、そういう関係性なんだ。
その状態で、俺の部屋に1人で来たからと
リスリーは俺に抱かれても良いと思ってるんだ。
そう思うの、論理の飛躍ってやつじゃないのか?
メチャクチャだろ。
だから例外にしていたんだ。
あのときだって……
地下闘技場の賭け試合に出る前に、止む無く同じ部屋に泊まったときだって。
彼女は従者だからと、俺の寝ているベッドに躊躇わずに入って来た。
嫌なら「ベッドから出て行け」と自分に命じろって、脅迫じみたことを言って来て。
彼女はそれぐらい真面目なんだよ。
だったら、このくらい別に普通で。
これを恋愛的な「好き」のサインだなんて考えるのは違うだろ。
「マサヤ様?」
そのとき。
俺はハッとした。
「どうしました? 手が止まってますよ?」
……メモする手が止まっていたようだ。
それを見咎められて、リスリーに言われた。
俺は
「ゴメン。ちょっと気が散ってた」
そう言い、リスリーに言われたことをメモする手を再び動かす。
どんな話だったっけと思い返しながら。
……何だか今日は
リスリーの唇や胸元、体温が妙に気になった。
妄想のせいだ。
彼女が俺のことが好きなんじゃないのか、という。
「マサヤ様、ノーザリア語の話し方が見違えるくらい上達されてますね」
そして。
ノーザリア語で日本のことを説明することを練習でやってたら。
一段落したときにそう言われた。
「そうかな? まあ、リスリーのお陰だよ」
俺はそう返して。
「熱心なのは教える方も嬉しいです」
俺の言葉に、そう言って微笑みかけてくれる彼女。
俺はその笑顔に
「自主練もしてるんだよ。キミとの会話だけじゃ実用性に疑問あるだろ?」
なんだか少し、強引に
「キミとだけ話すなら、日本語で十分なわけだしさ」
そんなことを言ってしまった。
その話題転換、無理ないか?
そう言われかねない。
でも彼女は俺の言葉に
「……確かにそうですね。私相手なら日本語で話せるわけなんですし」
同意するような。
そんな返しをしてくれたんだ。




