第88話 謎の視線
「ディッドウオーティアウグノル?」(待ちましたか?)
「オンイアエヴァハトンニーブグニティアウグノル」(いいえ、そんなことないですよ)
そんな待ち合わせでの定番の会話をし。
俺は自分のノーザリア語の会話能力のレベルアップを実感し、嬉しくなる。
そして劇場に入りながらキャサリーンさんと
「タハゥスィエフトエルティットフォエフトヤルプエゥエラグニイースヤドット?」(今日見る作品のタイトルは?)
「エフトエルティットフォエフトヤルプスィエウルトエヴォル」(真実の愛です)
演劇を見る際に交わされそうな会話をした。
……真実の愛か……。
なんかちょっと、ド直球すぎて少し恥ずかしいな。
そんなことを思いつつ、劇のチケットを2人分買い俺たちは劇場に入った。
チケット代をキャサリーンさんは自分の分は出そうとしたんだけど、俺は別にチケット代くらい大したことは無いので、全額出した。
こんなの、ノーザリア語の実地訓練の月謝だと思えば安いもんだよ。
そして2人並んで買った席へ。
俺たちが買ったのは、1番安い青銅等級の席。
1番高い席の黄金等級の席はちょっと手が出ないけど、青銅等級ならなんてことはないからさ。
青銅等級の席は立ち見席で。
場所としては劇場の奥側になる。
役者の表情はちょっと見づらいが、きっと舞台装置は見渡せるから、そんなに悪いものでは無い気がした。
さて、どんな劇だろう……?
今は黒い幕が舞台に降りている。
その幕が……
ピイイイイイ、という笛の音と共に上がっていく。
そこには……
見たところ、田舎村っぽいセットが並んでいた。
そして
歌が始まった。
「スィヒトスィ~アテイウクエガリヴ~♪」(ここは静かな村~♪)
ん?
何かで聞いたような歌だった。
何がって
メロディーが。
俺のそんな既視感は
話が進んでどういう物語か理解するにつれて、それが既視感ではなくて
実際に俺が酷似したものを見たことがあるせいだと確信するに至る。
話の筋はこうだ。
とある国にとても傲慢な王子がいた。
その王子は外見で全てを判断し、見た目が悪いものを軽視し全否定した。
そんな王子のところに、あるときみすぼらしい老婆がやって来て、美しいバラを差し出して1晩の宿を求めた。
だが王子は美しいバラは受け取ったが老婆の醜さを嫌い、侮って老婆の願いを聞き入れなかった。
その瞬間、老婆はその正体を現す。
老婆の正体は生命の精霊ライブラで。
ライブラは王子のその傲慢さに激怒した。
王子は許しを請うが聞き入れられず。
王子は魔物の姿に変えられて。
ライブラは王子にこう言う。
私がお前に与えたバラが散るまでに、お前が真実の愛を知ることが出来なければお前は永久にそのままだ。
……これってさ。
童話のあれだろ?
ミュージカルにもなってるやつ。
美女と野獣。
まあ、あれは俺も1度本物を見たことがあって、そのとき感動したけどさ。
それをそのままこっちの世界でやった奴が居るんだな。
それは自分が味わった感動をこっちの世界でも伝えたいと思ったのか。
それでこの世界で成り上がるネタにしようと思ったのか。
どっちなんだろうか……?
劇の出来は素晴らしいと思ったけどさ。
そんな雑念があったせいで、ちょっと俺は劇に完全には入り込めなかった。
劇が終わり。
俺たちは劇の感想を言い合うためにカフェみたいな店に入る。
屋外にテーブルが置いてあり、そこでお茶やお菓子を楽しめる店だ。
そこで俺たちはお茶と焼き菓子を注文し、劇について話し合った。
「エフトエネクスエレフエフトツアルスティリプスエスルクサウネコルブサウエフトツェブ!」(最後の精霊の呪いが解けるシーンが最高でした!)
キャサリーンさんが熱く語る。
俺もまあ、そこは感動した。
……内心パクリ作品だと分かってても、良いものは良い。
「イアエヴォルウォハイェフトエカムティツュジュニエミットロフエフトエニルダエド」(俺もです。ギリギリで間に合うのがイイですよね)
そんな言葉が自然に出た。
……一応、俺はキャサリーンさんに
自分はノーザリア語の習熟度がまだまだだから、聞き取りが出来てない場合がある。
その場合は聞き返すと思うけど気を悪くしないで欲しい。
そう言ってるんだけど、今のところそういうことは起きてない。
キャサリーンさんが気を遣ってくれてるのかもしれないけど、俺の上達もあるのかもしれない。
(やったぜ)
そう内心思い、今晩リスリーと勉強するときに上達した自分を見せてやろう。
そう決めたとき。
……俺は何だか、強い視線を感じた。




