第85話 今はそれどころじゃない
目の前に突きつけられた封筒。
一体それが何なのか?
俺は混乱したが
それを突きつけるキャサリーンさんの目から
俺にそれを渡そうとしていることに気づいた。
「スィタハトロフイア?」(これ、俺に?)
なのでそういうと、彼女は頷いたので。
俺はそれを受け取った。
流石にここまでくれば分かる。
……これ、絶対ラブレターだろ。
中身が気になったけど、その場で読むのは流石にマナー違反だよな?
誰に聞いたわけじゃ無いけどさ、なんとなくそう思ったから
「イアリゥデールティ」(絶対読むから)
そう言った後。
封筒を懐のポケットに入れて、俺は店を後にした。
生まれて初めて女性にラブレターを貰った!
俺は舞い上がっていた。
女の子に「あなたに好意を持ってます」って言って貰えた!
単純だけど、俺はメチャクチャドキドキしていた。
トオルと岩戸さんの屋敷に着くまで、俺はずっと考えていた。
告白の衝撃を受け止めきった後。
最初に考えたのは
ソウジのことがあるのに、女の子にうつつを抜かしていていいのか?
そのことだった。
それに関しては本気で悩んだ。
だけど……
(俺はどうなんだよ?)
俺は自分の気持ちを考える。
俺は……
キャサリーンさんは、別に嫌いじゃない。
悪い人だとは思えてないし。
俺に対して「好き」って思ってくれてるだけで、彼女に対して興味あるし。
そこが「好きな部分」になる。
それに言っちゃなんだけど、可愛い外見をしてる人だと思うし。
ロングヘアだし。
だからまあ
嫌かそうじゃ無いかと言えば
嫌じゃない。
そういうことになる。
でも俺には……
この国の重鎮のハゲ……レフィカルを倒すって目的があるんだ……!
だったら
(やっぱ、恋に現を抜かしている場合じゃ無いだろ)
それ以外無い。
それ以外の答えなんて……!
それにさ。
俺がレフィカルをブッ倒して。
この国の人間が皆俺を英雄扱いしてくれればいい。
でも、そうならないかもしれない。
いやむしろ……
俺たちの指導者のレフィカル様を襲った不届き者!
こう思われる可能性、決して低くないだろ!?
レフィカルがこの国を歪めていたんだ、ということを分かって貰えるのは10年先かもしれないよな?
俺はその場合、元の世界に逃げ帰るって選択肢があるだろうけど……
俺の恋人になってしまったら、キャサリーンさんはその場合どうなる?
異世界テロリストの女として、捕縛されないか?
だからこそ……俺はセレーネさんに
状況が詰んでしまった場合、リスリーを躊躇なくこの世界から連れ出してくれ。
そう言われたんだ。
いくら故郷とはいえ、将来が閉ざされた世界にいるくらいなら俺の世界に逃げた方が幸せだから、と。
だったら……
猶更、キャサリーンさんの想いを受け入れるわけにはいかない……!
……と。
そんなことを考えていたら。
俺は屋敷に帰り着いていた。
屋敷に帰ると
「おかえりなさい。マサヤ様」
リスリーが箒を持ち出して、玄関の土間にあたる空間の掃除をしていた。
ドアを開けるといきなり居たから、俺はちょっと驚いて。
「ただいま。掃除してるの?」
そう訊ねると、彼女は
「ええ。外からのゴミでちょっと汚してしまったので」
そう、俺に微笑みかけながら。
……そのとき何故だか。
俺は彼女の笑顔に胸の痛みを感じた。




