第83話 恋人じゃない!
ヤムイアエカトウオーダレドロ。
ヤムが資格に関する助動詞で。
イアが私。
エカトが自分のものにする。
ウオーはあなた。それに「ダ」がつくことで所有の意味が出て来て
レドロが命令だから……
あなたの命令をいただく資格が私にあるか?
そこから
ご注文を、なんだよ。
「キツネウドン、イジールプ」
俺はこのウエイトレスさんの言葉を聞き取れたことに達成感を感じつつ。
今日は1人で注文をする。
ウエイトレスさんはメモに注文を書き
「イルニアトレック」(かしこまりました)
そう言って厨房に引っ込んでいった。
(この世界のきつねうどんはどんな味なのか?)
前の世界じゃ西と東でも味が違ったはずだけど。
ここは世界が違うからな。
ポークカレーはまぁ、美味しかったけどさ。
俺は少しドキドキしつつ、注文の品が出てくるのを待った。
すると数分で出てくる。
早いな。
まるで立ち食い蕎麦みたいだ。
運ばれて来たそれは普通のきつねうどんで。
スープの色も変には思えなかった。
「いただきます」
思わず日本語でそう言って
手を合わせ。
箸を手に持ち、啜った。
うどんを啜って汁と一緒に飲み込んで。
思う。
……嗚呼、これはすごい再現度だな。
美味しい。
油揚げはちゃんと甘いし。
お汁も慣れ親しんだ……カツオ出汁……?
それに近いと思う。
そう思ったら……
なんか、涙が出て来た。
俺今、異世界に居て。
そこできつねうどんを食べているんだ、と思ったら。
急激にホームシックが来たのかもしれない。
この世界に強制召喚されて、そろそろ2カ月以上経つ気がするし。
……そのとき。
何故か注目を浴びている気がした。
えっ? と思い
(ひょっとして、啜って食べるのがNGだったのか?)
そう思ったんだが
ふいに視界の端に、ラーメンを食べている人が居て。
その人もどう見ても啜って食べるフォームだったので、違うと判断。
だったら何が……?
訳が分からずに見まわしていると
「エサックスイーイアスィグニィティレヴェヤコ? ワイエラウオーグニィルク?」
ウエイトレスさんが俺に話し掛けて来た。
心配げな顔で。
咄嗟だったのであまり聞き取れなかったが最後の「グニィルク」だけ聞き取れた。
グニィルクは涙を流すこと。つまり「泣く」ってことだ。
……ようはだ。
俺がきつねうどんを食いながら1人、泣き始めたから異様に思われたのか。
合点が行った。
だから
「イアマイロス」
ノーザリア語での「ごめんなさい」を言った。
続けて事情を話したかったけど、ちょっと咄嗟に出て来ない。
なので言葉が続かず黙り込んでいたら
「ディドウオーダレヴォルカエルブプヒティウウオー?」
ウエイトレスさんが痛ましそうな顔でそんなことを。
レヴォル、という単語と
カエルブプという単語が頭に入り
俺は彼女が何を言ったのか理解した。
レヴォルは恋人。
カエルブプが破壊や破断。
だからまぁ……
『恋人にフラれたんですか?』
そう言ったんだ。
……なんでだよ!
頭に浸透して思わずツッコみたくなった。
何で突然泣き出したら即恋人にフラれたことになるんだ!
俺は恋すらしたことが無いのに!
……と思ったら
(そういや……)
俺、この間リスリーを連れてこの店に来たんだよな。
そのとき、彼女が俺の恋人か何かと思われてて……
そして今日、1人で来たからか!
納得した。
なので俺は
「エーシュスィトンイアダレヴォル!」
リスリーは別に俺の恋人じゃ無いから!
そう、ノーザリア語で返答した。
そしてその俺の言葉に、ウエイトレスさんが口元に手を当てて
「イアマイロス! レモツック!」
お客様すみません!
そう言って謝って来たんだ。




