第77話 トオルの質問
トオルの屋敷に来て数日後。
特に大きな出来事も無く、普通だった。
トオルから聞いたことだけど。
まだ俺たち新規の召喚騎士で構成された兵団に、正式指令は出ていないらしい。
なので俺としてはまず、その正式指令が降りるときを待っている。
一応ここに戻って来たとき、ドラゴン討伐の経験を積んだことは言ってはいるけど。
まだ「ドラゴン討伐の証拠を見せてくれ」とは言われていない。
まずはそこからだよな……
それを証明できれば、俺の評価は上がるはずだし。
そんなことを思いつつ、俺は日々を過ごしていた。
そんなある日。
岩戸さんがリスリーに料理を習うために、2人が席を外しているときだった。
「あのさ、マサヤ。ちょっといいか?」
小声でトオルの奴が俺に話し掛けて来た。
俺はリビングのソファで見ていた本を閉じて
「えっ、何?」
何を訊かれるか分からず、戸惑いを覚えつつそう返す。
なんかすごく、重大なことを訊く感じなんだよ。
俺だけを対象に。他に訊かれたくないことを。
それに対して俺は心当たりが今のところ無かった。
この状況でするような深刻な話。
するとだ。
トオルは左右を見回して誰もいないことを確認した後。
こう言った。
「お前、リスリーさんを恋人にしたのか?」
俺はその言葉で
「いやいやいや、ちょっと待てよ。俺、そんなことを1度でも言ったか?」
予想外のその問いに、慌ててそう返した。
俺は何かしら大きな動きがあったときは、お前に報告してたよな?
俺、そんなことをお前に言ったことただの1回も無かったはずだけど?
俺のその言葉で
「いやでも、お前毎晩リスリーさんを部屋に招き入れてるじゃん」
トオルは別に茶化すつもりはなくて。
事の真偽を確かめたいのか。
その表情でそれが分かった。
(そのことか)
俺はトオルのその疑問がどこから来たのかを理解した。
確かに俺は、毎晩リスリーにノーザリア語を習っているさ。
自分の部屋で。
でもそれは純粋にただの勉強であって、断じてそういうことじゃないんだよ!
だから
「これを見てくれ!」
俺は手の持っていた本を示した。
ノーザリア語で書かれた本だ。
内容は旅行記。
神聖ノーザリア王国の観光名所について書かれた本だ。
俺は勉強の成果がどの程度出ているのかを確かめるために、なんとなく絵も描かれていて読みやすそうなこの本をこの屋敷で見つけたので見てたんだけど。
思わぬところで誤解を解くための一助になった。
「俺、今リスリーにノーザリア語を習ってるんだよ! 毎晩! 日中は岩戸さんに料理教えてるから!」
「……なるほどな」
そう言いつつ、俺が確かにノーザリア語の本を見ていたのを、パラパラと頁を捲って確認し。
そして
「でもさ……」
トオルは俺に本を返して腕を組み
「んー……」
そして悩む仕草を見せた。
何を悩んでいるんだ……?
気になったが
「まあいいや。お前が気づけないならそういうことなんだろ」
何か、口に出すことを断念された。
「ちょっと待てよ」
気になるだろ。
そういう言い方されると。
今お前、メチャメチャ悩んでただろ!?
だけどさ。
トオルは
「俺の勝手な妄想で、どうこう言っていい問題じゃない」
そう言って、何を言おうとしたのかを一切教えてくれなかった。
……何なんだよ一体……。




