第74話 しんどくないのか?
「魔法があると楽なんですけどね。岩戸様は習得されるご予定は無いのですか?」
「うーん、私のスキルも戦いに向くスキルじゃ無いから……」
リビングで。
緑色の布のソファに座りつつ。
お茶を飲みながら、リスリーと岩戸さんが楽し気に会話してる。
内容は料理のことらしい。
この世界にはガスが無いので、岩戸さんには煮炊きが難しいらしいんだ。
この屋敷のお手伝いさんに来てくれているおばさんは、口調は丁寧だけどなんだかとっつきにくくて。
岩戸さんはこの世界の料理を習えず、ここでの料理を覚えることができないらしい。
気持ちは分かる。
こんな俺らみたいなクソガキ共に仕える使用人として派遣されて。
ただでさえ面白く無いのにその上要らん仕事まで増やされる。
怒らせるんじゃないのかと思っちゃうよな。
同年代の少年少女なら、友達感覚で習うのもありかもしれないけど、おばさんは無理。
習うのに躊躇する。
特にさ
岩戸さんのスキルは、自分の味方になってくれる人を判別するスキルだから。
自分のお願いした後で、あの使用人のおばさんが味方ではないって気づいちゃうの辛いだろ。
余計頼み辛いわ。
「私も魔法を得てからは、あまり火打ち石を使わなくなったんで誇れるようなものではないんですけどね」
「でも、私よりはきっとずっと良いと思うんですよ」
岩戸さんは元々結構料理の腕に自信があったのに、彼女はガスで煮炊きするのが当然の環境だったから。
まるでその腕を振るえない。
だからこの世界の料理を習えるなら習いたいと、リスリーに声を掛けたわけだ。
リスリーが、俺の食事の世話を全部していたという話を聞いたせいだな。
でもさ。
そこで俺は思う。
(……リスリーにノーザリア語を俺が習う話は後回しの方が良いのかな?)
リスリーは岩戸さんの直接の友人ではなく、関係性としては……
俺とトオルが親友。
岩戸さんはトオルの彼女。
俺と岩戸さんは親友の彼女と彼氏の親友の関係性。
リスリーは岩戸さんの彼氏の親友の従者……
立場的に相当弱い気がした。
言い辛いだろ。
この関係性で。
俺にノーザリア語を教える約束あるから、料理を教えるのはちょっと……って。
だから
(リスリー、ちょっと)
リスリーと岩戸さんの会話の隙間を狙って、小声で呼びかける。
リスリーが気づいてくれたので、耳元で囁いた。
(俺に言葉を教える約束は後回しでいいから。無理しないでくれ)
リスリーは俺の言葉に小さく頷き。
「では、早速今日の夕飯のときに、この世界での煮炊きの常識をお教えします」
岩戸さんに笑みと共にそう約束をした。
ホッとする。
俺のために返しづらい返答を無理に返そうとしないでくれた。
……そう思っていたんだけど。
今日の夕飯の、魚の煮付けを皆でいただいた後。
後は寝るだけかな、と思っていたんだけどさ。
俺の部屋のドアに、ノックする音があって。
出てみると
「……さあ、それではノーザリア語の勉強をしましょうかマサヤ様」
ランプと紙、あとなんか筆記用具みたいなものを持ってリスリーがやって来たんだ。
寝るときの衣装なのか、少し薄手のゆったり楽そうな半袖の青い服を身につけて。




