第70話 帰還する前に
魔王領から王国に戻るため。
俺とリスリーは王国兵が警戒している国境付近に来ていた。
魔王領に入るときは非合法だったけど。
出るときは合法的手段で出るわけだ。
……どうせ王国に戻るつもりなんだし。
出にくい非合法手段で出るより、こっちの方がいいはずだ。
だが、まあ。
その前に。
やっとくことがあるんだが。
(なぁトオル、ちょっといいか?)
俺は脳内でトオルに呼びかける。
その数秒後。
(どうした?)
返事が返って来た。
(俺、王国に戻るわ。そっちで動いた方が有利だと思うから)
そしてこの事前連絡。
これはやっとかなきゃ、だろ。
戻る前に。
この連絡で、向こうに驚いてる空気を感じる。
それに俺は少し後ろめたさを感じた。
なので
(えっと、伝えるの遅くてゴメン。あと、色々手を打ってもらったのに)
詫びを入れる。
そもそも、俺はトオルの機転で単独行動を開始して。
色々とチカラを得るに至った。
なのにそれを無にするような。
そんな後ろめたさがあったから。
だけどトオルは
(いや、それが良いと思うよ。……決断した理由は?)
気持ちの整理をつけるためか、トオルはその理由を訊ねてくる。
俺はその問いに
(大谷さんと普通に会話が出来たから、そこからハゲを倒す方法を探ることが出来そうだと思った)
(そっか)
トオルからは、俺の決断に対するコメントは無かった。
まあ、俺がトオルの立場でもコメントはしづらいかもしれないな。
俺の事情は見て無いから分からんだろうし。
決断早く無いか? とか。
出て行ったの何だったんだ? とか。
言いづらいと思う。
俺がトオルの立場なら。
ただ
(大谷さんに会ったのか)
その代わりか知らないが、トオルはそっちを訊ねて来た。
俺は思わず頷いて
(……別人みたいになってたな)
正直に思ったことを言う。
彼女は少しもオドオドしていなかった。
力があることを自覚し、それで他者を威圧することを普通にやれる強者になっていた。
まるで最初からそうだったみたいに。
トオルは
(あれでも、俺と岩戸さんには優しいんだよ彼女)
そう言った。
そうなのか……
(俺と岩戸さんのために、一等の住居を与えるようにハゲに進言してくれたのも彼女なんだ)
曰く「虎口くんは情報伝達という極めて重要なことを容易にするスキル保持者! だったら虎口くんとその彼女の岩戸さんには特別優遇すべきだ!」って言って。
2人に一段高い待遇を進言してくれたらしい。
そうなのか……
確かにトオルのスキルは後方支援の能力としては神スキルかもしれないけど。
それを強調し、待遇の良くしようとするなんて。
(俺さ、思うんだけど)
そこでトオルは彼女のそんな振る舞いに対して。
こう言った。
(ひょっとしたら彼女、それでソウジから受けた恩を返そうとしてるのかもしれないな)
ソウジの親友は俺とトオル。
彼女が恩を受けた相手のソウジはもういない。
だからその代わりに、ソウジの親友に優しくする……
そういう気持ち、分からなくは無かった。
代替行為って言うのかな?
だとしたら、今彼女は一時的にコバルとゴワケ……あの2人への積年の恨みと、急に手に入った強大な力に翻弄されてるだけで。
普通の心を失ったわけじゃないのかもしれないな。
向こうに戻ったら、なんとか会話を重ねたいと思った。
彼女の気持ちの本当のところが知りたいと思ったんだ。
そんなことを考えていると。
(まぁ、とりあえず戻って来るんだな? だったらこっちで受け入れて貰えるように進言するよ)
トオルの言葉。
ありがたい。
(俺がドラゴンを討伐することが出来たから、戻る頃合いだと思ったという理由を)
トオルにそんな「俺を売り込むための情報」を話す。
それについて
(分かった。言っとく)
トオルが向こうで頷いてくれたのが見えた気がした。
(スマン。苦労かける)
そして脳内でトオルに礼を言ったとき。
「マサヤ様、国境警備隊の砦が見えてきました」
そこでリスリーが教えてくれた。
そろそろだと。
「分かった」
リスリーの言葉通り、向こうに色々見えている。
石造りの砦みたいなもの。
そこに等間隔に並ぶ王国の旗。
整地された土地。
……あそこにいるんだな。
国境警備隊。
俺は少し緊張する。
俺はこっちに来るために正規の手段を取らなかったから色々言われるだろうけど。
そこは覚悟しなきゃな。
そう思いながら俺は
「おーい!」
思い切り声を張り上げた。
向こうに気づかせるために。




