第69話 魔王領で得たものは
そして俺たちはダンジョンを出て。
また1日の時間を掛けて、俺たちは戻って来た。
魔族の集落に。
だけど
「気持ちだけもらっとくわ」
この集落のリーダー……魔族の族長。
他の魔族より一回りくらい大きな体を持つ男性魔族……そんな人物にそう言われてしまった。
迷惑を掛けたお詫びの印でダンジョンアイテムを差し出そうとしたときに。
「えっ」
まるで予想していなかったその返答。
彼らが何故そんなことを言うのかが分からない。
だから俺は
「どうして要らないんですか?」
そう訊ねていた。
魔族の族長はそんな俺の言葉に
「ワシら、別にエアリーと契約していて飛べるヤツはざらにおるからな」
魔族の族長は、このダンジョンアイテム・天空の長靴を断る理由としてそんなことを言う。
ようは、彼らにとっては大したアイテムじゃ無いから別に要らないということか。
でも……
「他者との取引の材料に使うことは……」
そう言いかけようとしたとき。
魔族の族長は苦い表情でその前に、被せるように
「起き抜けに肉を得たら、昼までにまだ肉を狩れる」
そんな、謎の言葉を口にした。
聞いた感じ、その言葉の意味は何かの諺のように聞こえた。
だから訊ねる。
「その言葉、どういう意味ですか?」
すると説明してくれたよ。
それは
「……起き抜けの寝ぼけた頭で狩りを成功させたなら、まだ2回目の狩りをする余力があるだろう、って意味の言葉やな」
それはつまり……
簡単に何かを達成したら、同じことをもう1回することに躊躇する理由は無い。
そういう意味の諺らしい。
つまり族長の言いたいことは
取引用にダンジョンアイテムを保持していて。
大谷さんのような勢力が押しかけて来たときに。
この天空の長靴を取引用のダンジョンアイテムとして差し出したとしても。
それで相手を引きさがらせることは出来なくて、さらなるおかわりを要求されるだけ。
何故なら簡単に何かが手に入ったら、ついでに2個目を奪うことに遠慮なんてあるわけがないから。
そういうことなんだろうか……?
共有するべきルールが無い、厳しい世界で生きてる人たちらしい理屈に感じる。
「だから要らん。危ない」
自分たちの事情を説明し終えた魔族の族長は、腕を蠅でも追い払うように振り、ダンジョンアイテムの受け取りを拒絶。
そして
「お前らが使えや。貴重なもんやしな」
そう、俺たちに天空の長靴の所有権を譲ってくれた。
こうして。
俺は……いや、俺たちは。
この魔王領で魔法を習得し。
ダンジョンアイテムまで手に入れた。
これを手土産に俺は再びあの場所に戻る。
そして必ず俺の手でアイツを……!
魔王領からの去り際。
セレーネさんと別れるとき。
俺は手招きされて、耳元でこう囁かれた。
「マサヤさん、お願いなのですが」
その言葉の後に、セレーネさんが俺に言ったこと。
それは
「……リスリーのこの世界での将来が閉ざされたと思ったなら、無理やりにでもマサヤさんの世界に連れていってくださいませんか?」
俺が目的を果たしたときの話だ。
リスリーの未来が閉ざされる。
それは十分あり得るというか……そうなる可能性が高いかもしれない。
俺たちが元の世界に帰った後、異世界人の男のために同じ世界の仲間を売ったとんでもない裏切り者。
そんな扱いを受けない可能性の方が低いんじゃ無いだろうか?
だからセレーネさんは言ったんだ。
そういうときは、リスリーをこの世界から連れ出してくれと。
従姉の、従妹への気遣い。
それが込められた願い。
セレーネさんが言葉の最後に
「どうしようもないことがこの世にはあると思いますの」
そう言った。
俺は……セレーネさんのその言葉に
何も言うことができなかった。




