第66話 ドラゴン戦の結末は
ドラゴンの急所は、顎下にあるらしい。
そこに脳があるそうだ。
普通に頭部に見える部分には脳が入っていないんだな。
外敵に対する囮らしい。
何でそうなってるんだということなんだけど、セレーネさんの見立てでは
「攻撃時に嚙みつきをする際に、頭を下げて攻撃することが強いられるので、普通の位置に脳を入れておくとそこを狙われるから」
そんな仮説を聞かされた。
それが事実だとして……
……なんか、人と戦うことを想定してる身体構造になってないか?
確か、目が生き物の頭部についているのは脳との接続距離を可能な限り短くするためなんだよな?
何かの本でそう読んだけど。
そこを度外視してでも、人と戦うときに有利になる身体構造になってるなんて。
で。
その顎下にある脳の位置なんだけど……
顎下に1枚だけ、逆に生えている鱗があり。
そこの下らしい。
その鱗はとても固く、砕くのは無理だそうだが……
剥がすのは不可能ではないらしい。
全力を込めれば剥がせるんだと。
なので俺はドラゴンの顎下に近づき、その「逆に生えている鱗」を剥がす必要があるんだ。
逆に生えている鱗……逆鱗を。
……そういやさ。
ソウジが昔
「東洋の竜の逆鱗って、竜の体内に存在する如意宝珠って秘宝の近くに生えているんだよ。これって、逆鱗は秘宝を守るセンサーってことかもしれないよな」
そんなことを、会話の中で逆鱗という言葉が出て来たときに話していた。
……ひょっとしたら本当のところの意味合いは、その東洋の竜の伝承をドラゴンに反映させたってだけかもしれないよな。
セレーネさん曰く、ダンジョンを作ったのは日本人かもしれないらしいし。
そんなことを思いつつ、俺はドラゴンに後ろから近づき。
その尻尾の付け根辺りからその大きな体をよじ登る。
……気づくなよ。
鱗による凹凸がクライミングにちょうどいい感じになっていて。
登れたんだけど。
これに気づかれて暴れられたらそこで終わりだから。
「熱の精霊フレイアよ! 炎によって焼き尽くせ!」
そこにリスリーがドラゴンに火炎魔法を打ち込み、気を引いてくれる。
ありがとう。リスリー。
俺は心で礼を言い、必死でドラゴンの身体をよじ登る。
そしてそのまま、ドラゴンの背中に到達したとき。ドラゴンが羽ばたこうとする。
この祭壇がある部屋は狭すぎるので、飛ぶことはできないが
風が巻き起こり、リスリーとセレーネさんの動きに乱れが生じた。
リスリーが手で顔を庇い、セレーネさんも風に耐えるため動きが止まる。
(まずい!)
俺はそのとき。
背びれに掴まったまま、ドラゴンの鱗の1枚を剥がした。
グアアアアッ!
ドラゴンの叫び。
鱗を1枚剥がしただけだが、ひょっとしたら人間で言えば生皮を剥がれたような痛みがあるのかもしれない。
ダメージを受けたわけではないだろうが、嫌なんだろう。
これは、と思った。
セレーネさんはエアリーの魔法で飛行状態だ。
閃くものがあった。
俺はそのまま、力任せに次々と鱗を剥がす。
剥がした跡に、血が滲んでいることを確認しながら。
自分の背中の手の届かないところにいる厄介な虫。
それが俺の今の立ち位置だと思う。このドラゴンにとっての。
なんとか俺を排除しようと暴れるドラゴン。
今のうちに逆鱗を!
俺はそう言おうとした。
だけど
その前に
グギャアアアアア!!
ドラゴンのひときわ大きな叫び。
見ると、セレーネさんが空中でクルクルと回転していた。
その手にはひときわ巨大な赤い鱗が握られていて――
(あれが逆鱗か)
それを理解したとき。
速やかにセレーネさんがそれを捨て、背中に背負っていた弓を構え。
矢を撃ち出し。
次の瞬間。
ぐおおおおおおお……
逆鱗で守られていた急所に矢を受けたのか。
ドラゴンはどうとその巨体を横倒しにした。




