第65話 鉄人化の限界
「では作戦の通りに!」
セレーネさんの言葉と同時に。
俺たちはバラバラに散った。
ドラゴンの火炎魔法……ファイアブレスを避けるためだ。
固まっていると、ドラゴンは確実にファイアブレスを吐いてくる。
なるべくそれは避けたい。
で、今言ったけど。
この世界のドラゴンのファイアブレスは魔法なんだ。
……まぁ、セレーネさんからの受け売りなんだけど。
魔物としてのドラゴンと縁深い精霊は熱の精霊フレイアで。
その脳を食べると、フレイアの声が聞こえるようになるらしい。
加えて、ドラゴンの死骸を解剖して調べても「火炎を吐けることを説明できるもの」が見つかって無いんだそうだ。
ブレス用の燃料を貯蔵しておく袋だとか、唾液が可燃性だとか、そういうものが。
だったらドラゴンブレスは魔法だろと。
吐息を灼熱の炎に変える魔法なんだ。
そういう結論になるわな。
まあ、ただ倒すだけならそんなことはどうでもいいのかもしれないが。
セレーネさんはその一般論が本当に正しいのかを知るために、一度ドラゴンを自分で解剖してみたいとは言っていた。
……ここまで連れて来てくれたお礼に、叶えてあげたい気持ちはあるが……
やれるか?
俺?
ドラゴンが俺に向かって前足の爪を振るってくる。
横殴りの一撃だ。
巨大な前足が突風のように俺を狙う。
それを
わざと俺は足を止めて、その攻撃を敢えてまともに喰らった。
当然、スキル「鉄人化」を使用して。
しかしドラゴンの力の前では、さすがの俺の「鉄人化」も重さの面で有利にはならない。
ドカンッ、という衝撃を感じたとき。
一瞬、俺の意識が途切れた気がした。
そして気がついたら、俺はダンジョンの壁に叩きつけられていて。
その石壁が凹んでいた。
所謂、クレーター。
しかも、そこから動くためにスキルを解除したとき。
爪の一撃を喰らった箇所に、激痛を感じた。
左肩の部分だ。
鉄人化でキャンセルできたと思ったのに、できなかったのか。
骨折なのか切り傷か分かんないけど、負傷……
ドラゴン、とんでもないな。
俺は悲鳴を必死で堪え、意識を集中して魔法詠唱をする。
「生命の精霊ライブラよ、その命の祝福我に与えよ」
俺の魔法詠唱を受け、俺の左肩の激痛が癒えていく。
何とか無視して動かせる程度にまで。
あとでリスリーにやり直して貰わないとな。
そう思いつつ。
俺は行動を開始する。
作戦通りに。
……1回、ドラゴンの一撃をまともに受けて
コイツはもう仕留めた。
そういう認識をドラゴンに与えて。
その隙に俺がドラゴンに致命的な一撃を加えて、倒す。
そういう作戦だったのだけど。
(……正直、鉄人化の能力を過信していた……)
鉄の塊にさえなれば、全ての打撃を無効化できると思い込んでいた。
それは、人間相手の話で。
このとんでもない魔物にまで通用する保証なんて無いのに。
舐めてたよ……!
でも。
今更もう、この動き出した戦いを止めるわけにはいかないだろ。
ここで逃げるようなら、あのハゲとの戦いでも俺はその選択肢を頭にちらつかせそうな気がする。
(いくしかない)
ドラゴンは俺を仕留めたと思い込み、セレーネさんとリスリーを狙っている。
全然こっちを見ていない。
俺は覚悟を固め、ドラゴンに向かって駆け出した。




