第60話 リスリーの家の話
次の日。
日が昇って早々に出発した。
歩いて到着は明日の午前中。
戻ってくるのはおそらく明後日。
交通機関が無く、船や馬が使えないなら歩いていくのが基本だった江戸時代は、庶民は歩いて旅行してたんだよな。
大阪から東京間くらいの距離を。
2週間くらいで。
飛脚はその距離を3~4日で走破したらしいけど。
確か、駅伝みたいにリレーで運んだんだっけ?
純粋に個人の能力でその距離を全力で行くなら、一体どのくらい時間がかかるんだろうな?
そしてその日の夜。
当然だけど野宿することになった。
キャンプだ。
獣避けに火を起こし、そしてセレーネさんが「結界」と呼ばれるお呪いをした。
お呪いだ。
本当に魔法的な効果がある奴じゃ無くて、気休めのやつ。
不測の事態に遭遇しませんように、って。
俺たちが寝泊まりする区画に、杭みたいなものを打ち込んでいた。
で、近場で蜥蜴が居たのでそれを焚火で焼いて食べた。
1メートルくらいの大蜥蜴だ。
(ちなみに魔物ではない)
外見は強そうで、なんか恐竜みたいな印象を受ける大蜥蜴。
ざらざらした茶色の鱗の身体で、あまり美味しそうに見えなかったけど。
セレーネさんが頭を斧で叩いて仕留めて、バラバラに解体した後、皮は剥かずに火に投げ込んで1時間ほど丸焼きにしたら。
それだけでかなり美味かった。
鶏肉に近い気がした。
……まぁ、ワニも美味いらしいし。
爬虫類は大体美味いのかもしれない。
しかし、塩を使って無いのに美味いのが不思議で。
その辺を訊ねるとセレーネさんに
「生き物の体内には元々塩が入ってます。血液はしょっぱいでしょう?」
って。
なるほどなぁ。
「しかしリスリーは叔母様によく似ているわね」
3人で大蜥蜴を完食後。
セレーネさんがそんな話をはじめた。
リスリーの家族の話か。
正直興味があった。
「そりゃあ、親子だから当然では無いですか?」
だからまあ、外見のことではないだろう。
セレーネさんがそんなことを言うはずがない。
この人はそういう発言はしない。
だとしたら、何なのか?
生き方? 性格?
そう思ってそう返した。
するとリスリーは
「姉さま、それは実の親子ですし」
そう言って流そうとした。
だけどセレーネさんは
「そうじゃなくて、意志の強さと、土壇場の度胸の大きさがよく似ているって言ってるんですのよ」
何だか楽しそうにそう返した。
「私たち召喚騎士由来の貴族は、スキルを持った者以外は次代に家督を継がせられないことになっておりまして」
「それは知っています」
だから跡取りがスキル無しだった場合、他の家からスキルを持った人間を婿取り、もしくは嫁取りしなきゃいけないって話。
リスリーから話は聞いてる。
だけど
「なので」
セレーネさんの話はその先の話だった。
それは……
「スキルを持たない人間は、子供を残してはいけないことになっていますの。基本的に」
曰く。
スキル無し同士で結婚して、召喚騎士の家系なのにスキルを持たない血筋を残すと、後々家を圧迫することになるかもしれないから。
スキル持ち以外は基本的に家督を継げないのだし、酷い言い方をすればそういう人は不良債権なんだ。
なのでスキル無しで生まれて来た召喚騎士家系の貴族の子は、男女問わず生涯独身を貫く神官になるのが一般的らしい。
で。
「叔母さまはスキルを持ってらっしゃらなかったんですの」
なので。
神官になるために神官の学校に通っていたのだけど。
そこで偶然リスリーの父親になる、当時王国軍の騎士をしていた別の貴族男性に出会って。
恋に落ちてそのまま結婚したそうだ。
……相手の家の格が圧倒的に下なのに。
なるほど。
現代日本じゃピンとこないけど。
この世界は身分差別が普通にある世界のはずだしな。
家督を継げないから神官を目指していたとはいえ、格下の家に嫁入りするって、並の胆力じゃ無いだろ。
貴族だったらその辺相当厳しいんじゃないかと思うしな。
「叔母さまは『自分がどうしたいか』と『自分の大切な人は何を望んでいるか』を一番に考える方で、そこで出た結論を迷わない方でしたけど……リスリーもそこはよく似てますわよ」
リスリーの母親のあの人は、そういう人なのか。
そんな人が「家の存続は考えなくていい。国の名誉を守るために戦え」って言ったのは
……亡き自分の夫も、きっと同じことを言うはずだ。
そういう確信があったってことなのかな。
何だかそういうの……
こう言ってはなんだけど、俺は素敵だと思った。




