第59話 魔王領を発つまでにしておきたいこと
俺たちは借りている家の中で車座で座りながら、話していた。
今後の予定について。
……魔王領を発つまでにやっておきたいことについて。
それは……
「セレーネさん、俺ダンジョンを攻略したいんですが」
「ダンジョンをですか。それはまた、どうしてですの?」
俺の言葉に、セレーネさんは理由を訊ねてくる。
俺が突然ダンジョン攻略を提案してきたことに疑問があるのか。
理由は2つある。
1つは……
「ダンジョンコアの番人であるドラゴンの強さを体感したい……いや、倒したいんです」
これは大谷さんのことが大きい。
大谷さんは災厄級のドラゴンを瞬殺した。
だったら俺も、災厄級とまでいかないまでも。
普通クラスのドラゴンを倒しておくくらいの経験はしておくべきなんじゃないのかと。
それぐらいできないと、大谷さんの下につくときに自分を売り込むのが厳しくなるんじゃないか?
俺のその考えに
「ああ、確かにそれはそうかもしれませんわね。仮にも自主的な修行をしていたという話でウロウロしてたわけですしね。良い着眼点ですわ」
セレーネさんは俺の言葉に納得する。
「それに」
続けて
「自主的に修行をしていた、なんて仰っておきながら、大した実績も示さずに舞い戻るのはあまりにも舐め腐ってますわ」
淡々と
「受け入れ側に拒否される恐れもあります」
そういう歯に布を着せない感想を口にされる。
いや、その通りだけど。
何だか、俺が非難されているようないたたまれない気持ちになった。
セレーネさんはリスリー同様容貌が整ってる方だから、こういう言い方ををされるとグサグサ刺さる。
なんだか怒られているような気持になる。
「姉さま、少し言い方がキツイです」
横で聞いてたリスリーがそうセレーネさんに窘めるように一言言ってくれる。
ちょっと嬉しい。
「あら、そうですか?」
セレーネさんは自覚が無かったみたいで口元に手を当て
「ごめんなさいね」
品よく、そんな一言を。
俺は頷き
「いや、セレーネさんの仰る通りですし」
言い方がキツイかもしれないけど、この人が今言ったこと自体はその通りだと思ったので。
俺はそう返した。
気を取り直して
「もう1つの理由は……ここの魔族の人たちに、ダンジョンアイテムを1つお詫びに置いていきたいのがあります」
「お詫びですか……」
俺の言葉を繰り返すセレーネさんに、俺は頷いた。
ここの魔族の人たちは、王国側の人間であるコバルとゴワケに酷い目に遭わされた。
だったらその埋め合わせと言ってはなんだけど、何かを置いて行った方がいいんじゃないのかと。
俺たちはここを去るわけだけど、セレーネさんは残るんだ。
だったら、後で気まずい思いを持たなくていいように、問題を決着させるべきではないのかと。
俺のその考えは
「ああ、それは正直助かりますわ」
セレーネさんに受け入れられた。
彼女は俺に頭を下げ
「私のこれからの魔王領での研究活動の妨げにならないように気を遣って下さったんですね? 嬉しいですわ」
そう言って、俺に微笑みかけてきた。
そのときの顔は、リスリーとそっくりのような気がした。
……そういうわけで、明日から俺はダンジョン攻略を目指すことになった。
狙うダンジョンは、前のギリギリ日帰りできる距離にあるダンジョンでは無く。
行き返りで確実に2日以上掛かるはずの別のダンジョン。
ダンジョンコアを破壊してダンジョンアイテムを取得すると、そのダンジョンは死んでしまった状態になるからね。
遠い場所にあるものを狙うのは、当然のことだよな。




