第56話 極大魔法
遠くの空から、夜の闇を突っ切って飛来する存在があった。
大きさはビルぐらいある気がする。
つまり、とてつもなくデカい。
その姿は翼のある爬虫類。
長い首に4本の足。
頭に生えた2本の角。
鱗のある身体。
こういう姿のモンスターを、俺はどういうのか知っていた。
ドラゴン。
さっきリスリーが呟いていたが、どうやらこちらの世界でもこういう魔物はドラゴンと呼ぶみたいだ。
俺は絶望した。
あれはあまりにもデカ過ぎる。
あれに比べれば俺たちなんて蟻みたいなもの。
蟻が少しばかり超能力を持っていたって、何なんだってもんだ。
それがこっちに滑空するように飛んでくる。
何なんだ……?
俺たちを食いに来たのか?
餌場を見つけたと思って……?
動けなくなっている俺にリスリーが
「逃げましょうマサヤ様!」
俺の腕を掴んで強引に引っ張った。
彼女は続ける。
「ドラゴンは魔物の中でも特殊です! ダンジョンで生まれるのは一緒ですが、主にダンジョンコアの番人で……」
彼女は説明してくれた。
本来ドラゴンはダンジョンコアを守るためにダンジョン最奥から動かない存在らしい。
そのドラゴンも大きいが、今こっちに来ているアレほどじゃない。
アレはドラゴンのイレギュラー。
ごく稀に、将来的にダンジョンに収まりきらないことが分かるのか、発生すると同時にダンジョンを抜け出して外で大きくなる個体がいるそうだ。
それがアレらしい。
広い外の世界で伸び伸びと成長し、あそこまでの大きさになるんだそうだ。
ただ、あの大きさの身体を支えるエネルギーの問題で。
ああいうのはそのうちエネルギー切れで餓死するそう。
だけどそれまではずっと腹を減らしてて。
飢えて死ぬまで他の生物を襲い続けるらしい。
だから……
「あのドラゴンは災厄です」
納得するしか無かった。
相手が餓死するまで逃げ続けるしかない、災厄の象徴……!
逃げましょう、というリスリーの言葉が弱腰ではないことに疑問は無かった。
だけど
「……ちょうどいいわ」
大谷さんが言った。
宙に浮かんだままの状態で。
俺に
「村田クン、あれを私が倒せばここの集落をメチャメチャにしたことを許すってことでいいかな?」
……そんなことを。
えっ?
混乱した。
意味が分からなかった。
あれは怪獣みたいなもん。
生身の人間がどうこうできるもんじゃない。
そう思ったのに。
彼女は
「……見せてあげる……」
大きく腕を広げ
自信に満ちた声でこう言った。
「極大魔法を」
極大魔法……?
初めて聞く言葉。
それは……
大谷さんが空中で佇んで
「時の王の十二の剣よ」
そしてその言葉を高らかに叫んだ。
そのとき。
どういうものか明らかになった。
魔法の詠唱が始まると同時に
キィィィィン!
金属音のような音が鳴った。
そして音と共に、大谷さんの周囲に複数の光の魔法陣が浮かび上がる。
「其は許されざる咎人にして地獄の住人」
そして続く大谷さんの声が、二重、三重に聞こえる。
これが……極大魔法?
その詠唱……?
大谷さんの詠唱はゆったりとしていたが、凄まじい威圧感を放っていた。
詠唱と呼応するように、大谷さんが着ているローブが風に煽られるようになびく。
そして
「相応しき場所に還せ!」」
大谷さんの周囲の魔法陣から11本の剣が撃ち出される。
それは空中で巨大化し、飛来しようとしてきたドラゴンに突き刺さる!
ゴアアアアアアアア!
身体中を剣で貫かれたドラゴンの凄まじい悲鳴が轟いた。
そして
雷のようなドラゴンの絶叫が轟く中
大谷さんの手の中に光と共に12本目の剣が出現。
大谷さんはすでに11本の剣が突き刺さりハリネズミになったドラゴンに
その12本目を投擲した。
その剣は真っ直ぐに飛び
同じように巨大化し、ドラゴンの胸を串刺しにした。
ぎいおおおおおお!
ドラゴンの絶叫。
そして
「裁きの祝福!」
その言葉と同時に。
全ての剣が大爆発を起こし。
ドラゴンは粉微塵に砕け散った。
バラバラとその残骸を地上に撒き散らしながら。




