第55話 訳が分からない大谷さん
大谷さんは俺のことが最初分からなかったようだ。
一瞬ポカンとした視線を俺に向けていて。
数瞬遅れて俺に気づいた。
服装が変わってるからピンと来なかったのか。
俺に気づいて大谷さんは
露骨に嫌悪感の籠った目を向けてくる。
汚いものを見るような。
俺はその視線を考えた。
そこにどういう意味が籠っているのか。
大谷さんは……
俺に嫌悪感を持っているのか。
何故?
そりゃあ……
(親友を殺されたのに、全て忘れて女連れで楽しく2人旅をしてる奴と思われてんだな)
それ以外無いだろ。
でもさ
(大谷さんにそのことを文句言えんのか?)
大谷さんだって力に溺れて好き勝手やってんじゃねーか。
納得いかなかった。
だから
「……そんな目で見られる筋合いは無いけどな。俺は自発的に修行を行ってんだよ。俺の勝手だろ」
「何が修行よ。自由になるメスが手に入ったから、有頂天になって遊びまわってるんでしょキモチワルイ」
吐き捨てるように。
大谷さんの言葉には俺に対する鋭い棘が含まれていた。
俺がキモチワルイってか。
俺は
「遊んでねーよ」
「嘘よ」
「嘘じゃない!」
言い合いになる。
そこに
「マサヤ様が真面目に高みに至るために修行を積んで下さっているのは本当です!」
リスリーが口を挟んだ。
俺に対する援護射撃か。
その瞬間だった。
「黙れ」
……急に、大谷さんの声が冷えた。
酷く冷たい目をリスリーに向けたんだ。
そして
「召使いの分際で私たちの会話に口を挟むな。次やったらただじゃおかないから」
その変貌ぶりにリスリーは言葉を失った。
俺に対しては俺を軽蔑している女子の態度だったのに。
リスリーに対しては人を見る目を向けていない。
えっ、と思った。
この態度の差は何なんだ?
ゴワケとコバルに対して残虐なのは分かる。
だって大谷さんはあの2人に酷い目に遭わされて来たんだ。
友好的になんてなりようがない。
積年の恨みを晴らすためにああもなるかもしれない。
でもさ
リスリーは別に何もしてないだろ!
しかも、大谷さんの中では「自由になるメス」の扱いを受けている女の子なんだ。
同情してやるべきなんじゃないのか?
混乱した。
混乱したけど。
俺はリスリーを背後に庇うように前に出た。
「何いきなりキレてんだよ兵団長さんよ」
そしてそう、大谷さんの意味不明の怒りを収めさせるための言葉を投げ掛ける。
すると大谷さんは
「……知ってたの。虎口クンから聞いたの?」
スッと元の視線に戻って俺にそんなことを。
俺は頷いた。
「俺が自発的に武者修行の旅をしている間に、だいぶ変わったってトオルに」
「そう……」
大谷さんは落ち着かなさげな様子をみせた。
自分の知らないところで自分の話をされたのが気になったのかもしれない。
「なぁ」
俺はそんな大谷さんに
「……ここの魔族の人たち、すごく気のいい良い人たちなんだ。いじめるのはやめてくんねーかな?」
さっきゴワケとコバルに言ったことを考えると、受け入れてもらえる可能性は十分にある。
そんな提案を俺はした。
……大谷さんはここの魔族が管理するダンジョンのダンジョンアイテムを根こそぎ奪って行こうとしたわけではない。
ちゃんとダンジョンが魔族の胃袋を支えていることを理解してて。
根こそぎ攫うのはまずいという結論を出したように聞こえたから。
そんな俺の言葉は
「文句はそこに這いつくばってるお猿さん2匹に言ってくれるかな」
ようは「私は知らない」という返答を返して来た。
俺はそこに少しカチンときた。
「……大谷さん兵団長だろ。リーダーなんだし部下の不始末の責任はとるべきだろ」
注意することじゃないのかもしれないけどさ。
仮にもリーダーなんだから、そういうのダメだろ。
どうしてもそこが気になったから言ってしまった。
大谷さんはそんな俺の言葉に
嫌そうな表情を浮かべて
「じゃあもっとそいつらを酷い目に遭わせてあげようか? それで満足?」
そんなことを言い出す。
あのさ
「そうじゃなくて……」
なんだかまた、言い合いが再開しそうになったとき。
突然
凄まじい吠え声がこの場に轟いて来た。
同時に風が巻き起こる。
何が起きたのか分からなかった。
でも
「ドラゴン……!」
呆然と空を見つめるリスリーの呟きで。
何が起きようとしているのか。
それに気づき。
俺は空を見上げ
絶望した。




