第49話 ゴワケのスキル
「誰かと思ったらドスケベの村田クンじゃない」
ゴワケが俺を嘲笑し見下す視線を送りつつ、そんなことを愉しそうに言う。
ドスケベだと?
わけわからんことを言うな!
そう思って言い返そうとした。
だが、その前に脳裏に
(いや、今俺はそういう設定になってるだろ)
(ギリギリまで俺の反逆の意思は隠すべきだ)
そんな言葉が過って。
俺は言い返すことを諦めた。
ここは抑えなきゃいけない。
ただでさえ大きな目的を任されているんだ。
耐えなきゃダメだ。
冷静に考えろ。
今の俺はあのハゲには
親友を殺された悔しさを、美人女騎士を召使にして傅かせることで誤魔化してる情けないヤツ
そういう認識のはずだ。
俺が力を蓄えるにはとてもありがたい認識だろ!
だったらそれを維持しなきゃいけないだろ!
それがソウジの仇討ちに繋がるし、その先の「日本への帰還」に繋がるはずなんだ!
だから俺は
「……俺はここに泊まってるんだ。出て行けよ。でなきゃぶちのめすぞ」
ゴワケの不愉快な言葉を無視し、そう返した。
ゴワケはそれが意外だったらしく
「へぇ? アンタここであのキモイ女騎士と恋人気分でも味わってるわけ?」
挑発混じりにそう返してくる。
キモイ女騎士……
リスリーのことか。
ふざけやがって
「黙れよクズ女。異世界に来てチート能力でも手に入ってイキリ倒してるのかよ?」
そう返しつつ
俺は考えた。
コバルとゴワケ。
コイツらのスキルは一体何なんだ?
気にはなったがトオルに訊ねる余裕が今の俺には無かった。
念話でも、意識が割かれる。
こいつらを前にしたらその余裕がない。
多分、相当強いスキルを得たんだと思う。
でなきゃ、ダンジョンアイテムを与えられたりしないだろ!
ゴワケは俺の言葉に
「へぇ、アタシのスキルアンタ知らないんだ?」
そうニヤニヤ笑いを深め
「まあアンタのゴミスキルよりはずーっといいスキルよ。……良いことをおしえてあげるわ」
ゴワケはニヤニヤ笑いを浮かべたたまま。
俺に語って聞かせた。
スキル発現の傾向というものについて。
それは……
「スキルはね、召喚されたことを喜ぶものほど、強力なものが目覚めるの。だからアタシとトウジは最強のスキルが目覚めたのよ」
最強のスキル……?
それは一体、どういうものなんだ?
俺はこいつらのスキルが何であるかを知らない。
それが何であるのかを知らないと、こいつらとやり合うのは危険過ぎる……!
俺の中の冷静な部分が、そう警鐘を鳴らす。
だけど
「……だからさあ」
噴き出す仕草をし
ゴワケは
「アンタのトモダチが丸焼きにされたの、そういう理由なのよ。この世界に召喚されたことに文句を言いに来るようなキモイバカ、どうせゴミスキルしか目覚めないから見せしめにするには最適ってワケ」
ものすごく面白いことを言っている。
そんな顔でゴワケは俺にそんなことを言ったんだ。
プチン、と俺の中で何かが切れる気がした。
こいつ……ソウジの死を嗤った。
許せなかった。
衝動的に踏み込んでいた。
一瞬で詰まるゴワケと俺の間合い。
ゴワケは対応できていなかった。
そして俺はゴワケを殴った。
腹や頭を殴らなかったのは俺の最後の理性だったのかもしれない。
俺の拳がゴワケの肩にめり込み
その瞬間、俺はスキルを使用する。
鉄人拳。
鋼鉄と化した俺の拳は、ゴワケの左肩を粉々に砕いていた。
俺の拳を喰らったゴワケは、肩を砕かれた激痛に泣き叫び――
いや
平然としていた。
俺の鉄人拳を喰らったのに。
ただ、自分の左肩を砕かれたのは気づいたようで
「……女殴るなんてサイテーね。キモイよ死ねば?」
そう落ち着き払った声で言い放って。
後ろにステップし。
俺との間合いを離した。
え……?
確実に左肩を砕いたはず。
粉砕骨折をしてるはずなのに。
訳が分からない。
そんな俺に、馬鹿にしきった笑みを浮かべるゴワケ。
ゴワケは言った。
「……ダンジョンアイテム……狂戦士の斧」
無事な右手に持っている戦斧を掲げる。
そして言った。
「使い手にとっては玩具みたいな重さだけど、振るわれる側には本物の鋼鉄の戦斧と同じ重さになる斧よ。しかも、使い手から一切の苦痛を取り去るオマケつき」
合点がいった。
そういうことか……!
だからただの女の域を出ていないゴワケが、こんな馬鹿でかい戦斧を扱えているのか。
そして鉄人拳で肩を砕かれているのに、平然としているのか……!
コイツに与えられたダンジョンアイテムの恐るべき性能に戦慄する。
そして続けて
「そしてアタシのスキルだけど……」
ゴワケはスキルの告白をした。
その内容は
俺は吐き気を覚えた。
コイツに相応しいスキルだと思ったが、酷過ぎる。
それは……
「アタシのスキルは『子供喰い』……男の子とエッチして子供が出来た場合に、その子供の命をアタシ自身のスペアの命としてストックできるスキルよ」
セックスして子供ができたときに。
受精卵の命を吸収するスキル……!
そう言っている間に、ゴワケは左腕を高く掲げた。
俺の鉄人拳で砕いた左肩がすっかり癒えているようだった。
勝ち誇ったようにゴワケは言う。
「……こんな感じで、命としてのスペア以外にも自分の治療手段としても転用できる……! だからアタシは無敵よ!」
この女の本性を見た気がした。
この女、今自分の子供として生まれるはずだった命を消費して自分の肩を治したんだ。
化け物だ……!
化け物のような女じゃないか……!




