第45話 ゲンブの味は
ゲンブの脳を取り出す行為はかなり重労働だった。
まずリスリーの剣を急所に喰らって死んだゲンブの首を切断する。
それにはセレーネさんが持参していた斧を使った。
ここは俺がやった。
こういう仕事は男の仕事だろ。
使った斧は刃の大きさがちょっと頼りない感じがしたが、何回か振り下ろすとなんとかいけた。
首の骨を攻略するのが厄介で、俺の方も結構汗ばむくらいは力が要ったけど。
そして斬首した後。
セレーネさんがゲンブの下顎を取り外した。
なんかナイフを上手く使って、やってたわ。
なんでそんなことをするのかというと、どうもゲンブの頭蓋骨はかなり固いので、そのままブチ割って脳を取り出すのは現実的ではないらしい。
……研究家らしく、詳しいな。
で、下顎を取った後、頭部をひっくり返して上顎の裏側から、ノミとハンマーを使って骨を割り。
そこからゲンブの脳を取り出した。
ゲンブの脳を目にして、俺は
「ちっさ」
その大きさに思わずそんな言葉が。
メッチャクチャ小さかったんだ。
ゲンブの脳。
パイアの脳と比較して。
死んでからこんなことを言われるの、コイツにとったら我慢ならないかもしれんけど。
「ゲンブの脳は小さいですわ。なのでなるべく損傷の無い形で取り出さないとマズイんです」
取り出した脳をリスリーに渡し、調理を任せながらセレーネさん。
なるほど。
そうしないと食べる部分なくなりそうだしな。
理解は出来る。
そして後に残されるのは、頭部を切り離された3メートル近い亀の巨体と。
下顎が無い亀の生首の残骸。
……後は捨てるのか。
なので俺は
「あとは捨てていく感じですか?」
「そうですわね。甲羅は素材としての価値があるので、持ち帰ると物々交換に役立ちますが」
私たちの人数が少なすぎますので、労力を考えると現実的ではありません、とのこと。
……なるほど。
なので俺は質問を変えた。
「では、食べられる部位ってありますか?」
「んー、それならば」
セレーネさんは唇に指を当てて思考し、答えてくれた。
それは
四肢と尻尾。
首の肉。
そして心臓と肝臓。
香草と一緒に焼いて食べると美味らしい。
あと腸も美味しいらしいが、腸は下処理が面倒なので避けた方がいいとのこと。
なるほど……
「では、なるべく持ち帰って外で食べませんか?」
「無駄にするのが嫌なのですか……? 魔物は生殖能力が無くて、勝手に湧くものですのに?」
セレーネさんの言葉に俺は頷く。
「なんとなくですけど……いけませんか?」
なんとなく、食べられるものを放置して捨てていくのに抵抗がある。
セレーネさんは溜息をついて
「それが実際の日本の皆さんの価値観なんですか? まあ、良いですわ」
そう言った後、ゲンブの首の肉を剥ぎ取りはじめた。
……他の部位は大変すぎるから無視か。
まぁ、それはしょうがないよな。
ゲンブの身体は体重何トンか絶対あると思うし。
動かせないからさ。
こうして俺は、その場でゲンブの脳を食べて大地の精霊アーシズの魔法を使えるようになり。
その後外に出て、皆でゲンブの首の肉で焼肉をした。
野外でのバーベキューみたいなもんだ。
かなり美味かった。
味は牛肉に近い気がした。
亀って美味いんだな。
ワニの肉は鶏に近いと聞いたことはあるんだけど、亀は違うのか。
……ここまで美味いなら、他の部位も食べてみたかったなぁ。
「姉さま、なかなか美味ですね」
「ええ。魔物は大体味が良いんです。普通の肉食系の動物は味が悪いのが普通なのに」
まるで戦って倒した人間に報酬を与えるためにそうなってるみたいだ。
セレーネさんはゲンブの肉を咀嚼して飲み込んだ後、リスリーに向かって自分のそんな思いを口にした。




