第44話 VSゲンブ
しかしゲンブなぁ。
確か玄武って、水を司って無かったっけ?
リアルの伝承の方の玄武ね。
何かで読んだ気がする。
多分単純に黒い色の巨大亀だからゲンブって名前を与えたんだと思うけど
もってる魔法力が大地の精霊由来って、変だろ。
別にどうでもいいことかもしれないが、なんとなく気になる。
そんなことを考えつつ、俺は身構えた。
ゲンブ。
見た目は3メートルくらいのゾウガメだけど。
口はカミツキガメを彷彿とさせる。
どこかクチバシに似てる感じ。
肉食の亀だものな。
こういう口が自然だろ。
噛まれるのは避けたい。
多分、食いちぎられる。
……この世界、魔法でおそらく人体欠損は治らないんじゃないだろうか?
何故って、もし人体欠損が治るなら宦官というシステムが成立しなくなるだろ。
人体欠損が治るなら、アレを切った後に治せばいいって話になるから「お前は子供を作れないから後宮に入り込んで良いよ」って理屈が破綻する。
だからおそらく治らない。
治るのは切り傷や骨折のような、普通の治療でも治せないことは無いレベルの負傷のみ……!
だから俺はゲンブの正面を避け、サイドに回る。
そして踏み込んでその甲羅に、渾身の利き手の突きを叩き込んだ。
(鉄人拳!)
拳が甲羅に命中した瞬間、スキル「鉄人」を使用する。
俺の必殺の拳。
パイアの頭を一撃で砕いた技。
亀は防御力はすごいかもしれないが、その防御力を無視できる攻撃力があるなら恐れるに足りない……!
だけど
(……っ!)
砕けたのは俺の拳だけだった。
ゲンブの甲羅はビクともしなかったのだ。
ゲンブがその長い首をこちらに向けてくる。
そして
ガチン!
その強い顎で噛みついて来た。
俺は慌てて鉄人化を解除し飛び退いた。
砕けた拳が激痛を俺に伝えてくる。
そんな俺の様子に、セレーネさんが
「ゲンブの甲羅は、魔族の間では最適の盾の素材として選ばれるくらい強固ですわ! マサヤさんの鉄人拳が通じるかどうかは怪しいですわ!」
叫ぶように助言を飛ばして来た。
……それ、もうちょっと早く言って欲しかった!
痛む拳に耐えながら俺は
「生命の精霊ライブラよ、その命の祝福我に与えよ」
なるべく気持ちを入れながら、詠唱をする。
リスリーがやっていた詠唱の内容を少しパクった、簡単なやつ。
この「取り敢えず詠唱」で、完治は怪しいが激痛だけは収まる程度に拳が癒えていく……。
なんとか普通に使える程度までは回復した右拳を握りつつ、俺は考えた。
甲羅への鉄人拳はこいつに通じない。
だったら……どうするか……?
ゲンブは俺に狙いを定めたらしい。
ドスドスと地響きがしそうな足音を立てて、俺の方に突っ込んでくる。
逃げきれないほど速いわけじゃないけど、遅すぎるわけでもない。
俺はそれを待ち受けた。
「マサヤ様! 無茶しないで!」
リスリーの言葉。
彼女が俺の身を案じてくれてるのが伝わって来た。
……真面目で優しいな。
リスリーは。
そんなことを考えつつ。
ガチン!
また噛みついてきたゲンブをサッと躱し
俺は目を見開いた。
……ゲンブの周りの空中に、30センチくらいの金属の杭みたいなものが発生している!
「ゲンブのアーシズの魔法です!」
リスリーの悲鳴のような声。
どうやらゲンブは俺が回避行動を取れないように、先に魔法でダメージを与えようとしているのか。
……しかし、魔物は詠唱しないんだな。
まあ、こいつらアタマは獣と変わらないし、精霊と会話なんてできないだろうし。
こいつらだけは「例外」なんだろうか。
まぁ、今はそれはどうでもいい。
こいつが理解してるのかどうか怪しいけど、あの金属の杭を防ぐために鉄人化すると、動きが止まるから噛みつきが躱せない。
噛みつかれたら終わりだ。
鉄人化を永久に続けるのは不可能。
鉄人化を解いた瞬間に食いちぎられる……!
なので。
俺は決断した。
たったひとつだけ、コイツに有効打を与えることが出来る方法を。
それは……
「マサヤ様!」
リスリーの叫ぶ声。
リスリー……今のうちに頼む。
俺は……
ゲンブの首に飛びつき、しがみつき
そのまま鉄人化した!
両腕両脚でゲンブの首をロックした状態で鉄人化したから。
ゲンブは行動不能になる。
突然首に鋼鉄の巨大な重りを括り憑けられたも同然の状態になったわけだ。
ゲンブは首を動かせなくなる。
そんな状態では行動することなど不可能だろ。
ドン! ドン!
突然首が重くなったことに混乱し、暴れて。
ゲンブが激しく足を踏み鳴らす。
「リスリー! 今よ!」
そのとき。
セレーネさんが叫んでくれた。
俺の無呼吸の限界が来る前に動いてもらわないと困るから
ありがたい。
リスリーが突進して来た。
そして
「てやあああああ!」
全身の力を乗せて、リスリーはゲンブの甲羅の隙間に剣を滑り込ませ
柔らかい首筋の肉に深々と、その剣を突き刺した。




