第43話 ダンジョンと魔物と
ダンジョンはダンジョンだった。
イメージ通り、どう見ても人工物な石の迷宮。
幅が6メートルで。
天井の高さが5メートルくらい。
この中で、魔物が発生し続けているらしい。
……ダンジョンコアを破壊するまで。
一体、いつからあるかが分からないそうだ。
王国が建国される前にはすでにダンジョンはあったらしい。
セレーネさんは魔物の研究に打ち込んでいる以上、魔物と縁深い関係にあるダンジョンについても色々知っていた。
魔王領に来たのは、王国では勝手に入って調査できないダンジョンを自由に調べてみたいというのもあったらしい。
「転移者の方がいらっしゃるなら、できるなら是非ダンジョンコアの安置されている祭壇を見て欲しいですわね」
そんなことを、ダンジョン入り口を潜って歩きながら、セレーネさんが呟くように言った。
ダンジョンの中は少し黴臭くて、湿気も感じたが、異様な臭いだとか異様な暑さ、寒さなんかはなくて。
過ごしやすい環境だった。
ここで魔物が生まれている……
そこでふと、思った。
「あの、ここで魔物の死骸が見えないのはどういうわけですか?」
疑問に思ったんだ。
魔物は例外なく肉食傾向にあると聞いた。
だったら、ダンジョン内部では魔物同士の食い食われる関係性が出来上がっているはず。
だったら腐乱した死骸が無いにしても、骨の1本や2本は転がっていても良さそうなものなのに。
ダンジョン内部は綺麗で、その石畳に何も落ちていなかったのだ。
それについては
「それは、魔物の死骸は一定の時間が過ぎるとあっという間に無くなってしまうからですわ」
だから昨日、一番良い肉を取った後のパイアの死骸を放置して帰ったでしょ?
そんなことを言われた。
……ああ、そういえば。
当たり前のように、一番美味い部分の肉を剥がした後。
残った部分を完全放置で帰って来たから「え? いいの?」って思ってはいたんだけど。
そんなカラクリがあったのか。
……でもさ。
「肉は食べてしまってもう無いですが、一緒に剥がした毛皮はまだありましたよね?」
それにさ。
魔族の人々が着用している服、どうみても魔物の毛皮から作ってると思うんだけど。
何故それは消えずに残ってるの?
加工しているから?
疑問として浮かんだので訊ねる。
すると
「それは良い質問ですわね!」
セレーネさんが俺に顔を向けてくる。
そしてその目が輝いていた。
彼女は
「それはですね、所有権だと私は結論付けました」
「所有権?」
彼女曰く。
魔物の死骸から肉や毛皮、角や爪を切り離して「自分の所有物」にすると。
その部位は一定時間経つとあっという間に無くなるというルールから外れるらしい。
色々実験したそうだ。
魔物を仕留めて、その後丸焼きにして放置するとか。
毛皮を剥がして、それだけ放置して見るとか。
すると、素材や食材として剥ぎ取った後、それを放置すると一定時間過ぎるとグズグズに分解して消えて行ったらしい。
でも、毛皮をなめすとか。
肉なら食べるつもりがあった場合、分解せずに残ったらしい。
(食べるつもりが無かった場合は、火を通してもダメだったそうだ)
なのでセレーネさんの結論としては
魔物の死骸は、その死骸の所有権を誰も意識していない場合、一定期間でなくなる。
そういう結論になった。
誰がそんな判定をしてるんだよ……?
そう思ったけど、それについては
「仮説ですけど、私は精霊では無いかなと思っているんですけどね。それに関してはまだ詳しくは研究しておりませんわ」
……魔物の死骸の消滅についての研究結果を語るセレーネさんの目はキラキラしていた。
俺はそれを眩しく感じた。
本当にこの人、根っからの研究者で、魔物の専門家なんだな。
俺は彼女の中に、ソウジに似たものを感じた。
ソウジも人の知性を大切にする奴で。
本当に頭のいいヤツだった……
そして俺が、思い出の中に入り込もうとしたとき。
セレーネさんが足を止めた。
そして言う。
「2人とも……魔物ですわ」
魔物……
前方を見ると、この石の通路の前方から大きな影が這い出てくるのが見えた。
それは岩みたいな生き物で……
全体的なフォルムは亀に見える。
リクガメ。
……いや、ゾウガメだ。
ただ大きさは数メートルある。
体表が本当に岩のようで。
イメージとしては黒曜石みたいな鉱物で身体が出来ている亀だ。
その大亀は、のそり、のそりとこちらに向かってくる。
それを目にしたセレーネさんは、少し嬉しそうにこう言う。
「運がいいですわね。……これはゲンブ。大地の精霊アーシズの力を持った魔物ですわよ」
そっか。
そりゃあ、俺はツイてるな。




