第38話 パイアの脳、実食
俺、脳なんて食べたことは無いんだが……
なんか、魚の白子に似てる気がするな。
思ったほどグロくない。
フライパン片手にどっかり地面に腰を下ろし、箸を渡されてそう思った。
脳の調理の仕方なんて全く分からないから、リスリーにやってもらったけど。
これ、美味しいのかな?
思ったほどグロくないが、美味しそうにも見えないし。
加熱したせいか、思ったほどプニュついていない気がする。
固さは木綿豆腐くらい?
箸で触れた感じだけど。
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、リスリーが俺をじっと見ている。
眺めてるんじゃない。
見てるんだ。
「えっ、どうして俺を見てるの?」
理由が分からないのでそう訊ねると
「味付け塩だけなんですが、上手くできたかなと思いまして」
そんな返しを。
えっ、塩だけ?
「内臓系って臭いイメージなんだが」
なのに臭い消し用の処理が無いのか。
香辛料とか。香草とか。
不安になったからそう訊くと
即座に
「死んだ直後の肉はあまりそういうのは無いんです。なので塩だけでも問題ありません」
そう返された。
だったら何で見てるんだよ……
理解不能。
まあ、やってもらっておいて文句を言うのは違うし。
魔法習得のためには、死後なるべく早く脳を食べる必要があるらしいから。
魔法を使用できる生物の脳は、死後時間が経つにつれ「食べた場合に魔法を使用する能力が身に着く」という効能が無くなっていく。
なので、魔物を仕留めたら速やかに脳を取り出して食べる必要があるんだとか。
その際に、調理するのは全然OKらしい。
だからやってもらったんだ。
……勇気が要る。
単純に魔法を得るということに恐れがあるのもあるが……
食べたことのない部位であるというのが一番大きい。
中華料理だと頻繁に出て来るイメージはあるけどね。
……深呼吸。
そして
ええい! 行ってやれ!
俺は思い切って、フライパンの中身の白い物体を箸で口に放り込み、咀嚼した。
すると……
(あっ、これはウマい)
なんだろうこれは……
レバーとはちょっと違う気がする。
舌触りがまろやかだ。
口の中で溶けていく感じがある。
そして飲み込むと、豚肉の上物の余韻があった。
「美味しいですか?」
リスリーの言葉に俺は頷き
「食べにくいと思ったけど、全然大丈夫だ。ありがとう」
礼を言う。
リスリーは俺の言葉に
「そうですか。良かったです」
本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
俺はその笑顔が綺麗だと思った。
そして同時に
フフフ……アハハッ
誰かの笑う声が聞こえた。
いや、音として聞いたんじゃない。
笑っているという事実を感知したような。
そんな、奇妙な感覚……
これが精霊の声を聞くということなのか。
……こうして俺は
魔法を使うチカラを手に入れた。




