第37話 鉄人拳
「パイアの前に飛び出すなんて無謀もいいとこですわよ。いくらスキルがあると言っても無茶過ぎます」
セレーネさんがめっさ俺にキレてる。
まあ、当然かもしれない。
俺は謝った。
「すみません。でも、実戦経験を積む絶好のチャンスだと思ったんです」
……言い訳も交えて。
タイミング的にベストだと思ったんだよな。
いつかは実戦に投入しなきゃいけないんだし。
だったらやるべきだろと。
それに、突進して来る魔物相手に決めたらどうなるかとも思った。
相手の力も加わって、すごいことになるのではと。
必殺のスキル併用の突き……俺の「鉄人拳」を。
……この、スキル「鉄人」を併用した最高の突きをどう呼ぶかでだいぶ迷った。
ハンマーナックルだとか。
アルティメットブロウだとか。
で、どれも違う気がして。
シンプルに「鉄人拳」と呼ぶことにしたんだ。
「もし失敗してたらとか考えなかったんですか!? 本当にもう!」
セレーネさんは怒っている。
彼女は怒りながら、俺の一撃で即死したパイアを解体していた。
ぶっとい刃物を使って、肉を切り分けているんだ。
巨大イノシシの背中の肉を。
……一番美味いのがそこらしいんだよな。
俺も手伝いたいけど、どうやればいいのか分からないから見てるしかない。
勝手に飛び出して鉄人拳やって迷惑かけて、挙句解体を丸投げ。
正直、情けない気持ちになるから辛い……。
彼女は切り分けた肉を、先に剥いだパイアの毛皮の上に置いていく。
どうやって持ち帰るのかと思っていたけど、あれで包んで持ち帰るのか。
「それで持ち帰るんですか?」
「ええ」
休みなく背中の肉を切り出しながらセレーネさん。
俺は
「それ、持ちますから」
自分でもできそうなことを見つけたから、そう伝えると
「助かります」
お礼を言われた。
そこで少しホッとする。
なので俺は
「ノーザリア語でイノシシのことをパイアって言うんですか?」
そう、少し思ったことを口にする。
パイアなんて名前を聞いたことは無かったから。
だけど
「ディル・レイブですわ」
返って来た言葉はそれだった。
「ディルが野生の、レイブが豚という意味です」
続けて詳しい解説。
えっと
「じゃあなんでパイアなんですか?」
「数十年前にやって来た転移者が、魔物の日本語名を考えて作ったんですよ。由来は良く分かりません」
何か魔物にこだわりを持った転移者だったらしく、その人物が現存する魔物全てに日本語名を設定したらしい。
そのときにあの化け物イノシシに設定された名前が「パイア」なんだそうだ。
なんというか……
スゲーマニアな奴だな。
魔物の名前、多分神話とか、ゲームだとかアニメ由来な気がする。
そいつ、魔物に納得のいく名前がついてないから頑張ったんだろうな。
顔も見たこと無い誰かの話だが……
何だか俺はその人に、好感を持った。
何かに打ち込む人間ってのは嫌いじゃ無いし。
そのとき。
「マサヤ様、出来ました」
リスリーがフライパンを持ってこっちにやって来た。
そのフライパンの中には白い塊が入ってる。
……パイアの脳だ。
どうもパイアは生命の精霊ライブラ由来の魔法が使用でき、本来は再生能力が異常に高いらしい。
だから倒す際は急所に攻撃を当てて瞬殺を狙うのが基本になるらしく。
俺が飛び出したのは、結果的に良かったようだ。
空を飛びまわるセレーネさんが、パイアの急所に矢を叩き込むのを延々やらなくて済んだんだから。
で。
ちょうどいいから先にライブラの魔法を手に入れておこうって話になって。
こうしてリスリーが、俺の鉄人拳の一撃でぶっ飛ばずに残ってたパイアの脳の一部を調理してくれていた流れ。
脳って部位は過熱しないとヤバいそうで。
俺としても、生で食べるのは嫌だなと思ってたから
結果的にありがたかった。
さて……
俺はリスリーからフライパンを受け取った。
そして箸も一緒に渡されて……
いただくか。




