第23話 これじゃヒモだろ
リスリー、なんでウエイトレスやってんだ!?
思わず大声で問い質そうと思ったが
(ここで目立つべきじゃない)
そう思ったのでグッと堪えた。
なのでじっと、彼女が働いている様を見ていた。
彼女はきびきびと、そして愛想よく。
ウエイトレスの仕事をこなしていた。
……一応、貴族なのに。
下級貴族の実態は見せて貰ったけど、彼女は絶対にこういう仕事をこなすようなことを想定して人生を生きて来なかったはずだ。
時折、酔っ払いに身体を触られそうになっていたが、さりげない仕草でそれを躱していた。
そこに俺は少しホッとする。
そのままじっとタイミングを待って
手が空いて自分の近くを通りかかったとき。
「なあリスリー、ちょっと」
小声で呼び止める。
リスリーは応じてくれた。
俺にスッと近づいてくれた。
俺は
「なんで」
「仰りたいことは分かっております」
訊ねようとしたけれど、そこに彼女が言葉を被せて来た。
そして
「……どうして働いているんだと仰りたいのですよね?」
続いた言葉が概ね外れていなかったので、俺は頷いた。
彼女は
「3日間の宿代をタダにしてもらうために、ここで働くことにしたのです」
そう、声は小さかったけど、迷いのない口調でそう言ったんだ。
えっと……
「そんなにお金無いの?」
元々沢山あるとは最初から思って無いけど、宿代のために働かなければならないほどなのかと思ったからそう訊ねると
「豪遊するような余裕がないだけですね。でも、節約できるところはしていかないと駄目でしょう」
彼女は真顔になってそう言い切る。
……確かに。
でも、それなら事前に俺に相談を、と言いかけたとき
彼女はニッコリ微笑んでこう言った。
「それに喜んでください。私の働きが気に入っていただけたようで、我々の3度の食事代も優遇してくださるようですよ?」
……そんな彼女の笑顔を見たとき。
俺は何も言えなくなった。
その後。
食事の時間になって
俺は彼女と一緒に野菜スープと肉とパンの食事をとった。
味はまぁ、普通だったけど。
彼女の働きで支払いがかなり安くなった食事……
何とも言えない味に感じた。
美味い不味いとかじゃない。
重い、というか。
……これじゃヒモじゃないか。
あまり良く無い話で、女の子に働かせて遊んで暮らす男の話を聞いたことあるけど。
俺が今やってること、実質そいつらと一緒だよなぁ……?
でも、それが嫌だから「俺も働く」って言えないのがな。
だって俺、ノーザリアの言葉が分からんし。
言葉の通じない人間がやれる仕事なんてすごく限られる。
だから事実上、俺はこの国では働けない。
彼女にぶら下がるしかない。
そこに、なんともいえない惨めさがあった。
そんな俺の心情を察しているのかいないのか
「なかなか味は良いと思いますがどうでしょうかマサヤ様?」
俺の前の席でパンを千切って口に運んでいるリスリーが、料理の味についての感想を俺に求めて来た。
俺は
「ああ、美味いよ。ありがとうリスリー」
これ以外答えようがないよなと思いつつ、そう返す。
リスリーは
「そうですか。良かったです」
パンを飲み込み、野菜スープに手をつけながらそう言って、満足そうに微笑んだ。
しかし。
……この食事についても辛かったが。
その晩、寝る時間になったとき。
これ以上に面倒なことになるとはこのときは想像していなかったよ。




