第217話 さあ、家に帰りましょう
「ありがとうございました」
そう言って、推定中学生の少女たちにスマホを返す。
少女たちは
「いえいえ。詳しい事情は分かりませんけど、嘘は言って無いのは分かったので」
「大変でしたね」
そんな言葉を返して。
黙り込む。
そして
「花蓮ちゃん、もう行こう?」
「ああ、うん分かった。春香ちゃん」
……会話を切るタイミングが掴めなかっただけらしく。
そう言った後。頭を下げて去って行った。
お礼を言うのはこっちの方なんだけどな。
お陰で、日本への転移はこれで間違いない確証が得られたんだし。
次は魔晶石のエネルギーチャージが済み次第、帰りたい人がこっちに帰ってくるはずだ。
「やれやれだぜ……」
そう言って。
一休みして、その辺に座りたくなったが
「おっと」
そうだった。
ここでじっとしてはいられないんだ。
「リスリー、行こう」
言って歩き出す。
俺の背中にリスリーが声を掛ける。
「どこにですか……?」
俺は振り向かずに答えた。
「岡山駅」
そう。
俺たちは岡山県に転移していて。
そこの岡山駅周辺にいるみたいだった。
標識が出ているから。
何キロで岡山駅、という。
母さんとは岡山駅で落ち合う約束をした。
……どうも、母さんは俺が消えた後、家で連絡を待つために仕事を辞めたらしい。
俺が万一、家電に電話をしてきた場合、誰も家にいない状況が常態化していたら、俺の必死のSOSを逃すかもしれないからと。
俺は母さんのそんな気遣いに感謝しつつ。
俺のせいでは断じてないと分かってるけど、仕事を辞めさせてしまったことに罪悪感を持った。
母さんはずっと働いていたから、キャリアはしっかりあったはずなのに。
そして1時間くらい歩いて。
俺たちは岡山駅に到着する。
岡山駅はそれなりに大きく。
県の名前を冠しているだけあると思った。
母さんとは桃太郎像の下で待ち合わせている。
桃太郎像はすぐに場所が分かった。
リスリーと2人、そこに辿り着き。
やれやれと言った感じでその下に腰を下ろした。
「この像になってる人は誰なんですか?」
一緒に像の下に座りつつ。
興味深そうに、そう像の由来を訊ねるリスリーに
「この辺の土地を支配していた怪物を倒したとされる英雄」
そう、簡潔に答える。
多分それで間違ってないはずだし。
するとリスリーは
「この世界にも魔物がいるんですか!?」
そう真剣な顔で驚いたので
「いや、居ないよ。一応。公式には」
あくまで伝説の話なんだと前置きし。
桃太郎の話と、確かその元ネタになったとされる温羅という鬼神の話をした。
リスリーはその話を聞いて、色々と質問をしてきて。
俺はそれを分かる範囲で答える。
それをやっていたら、時間がだいぶ溶けていって。
気が付いたら
「マサヤ!!」
周囲が暗くなっていて。
目の前に母さんが立っていた。
新幹線に乗ったはずなのに。
まるっきり普段着で。
紫色の薄手のセーターと、長めのスカート。
そんな、他人の視線が気になる格好。
外出着を出す間も惜しんで、全速力で来てくれたんだ。
俺を見る母さんの目は揺れていて。
身体はぶるぶると震えていた。
そして俺は立ち上がり
「母さん!」
……思わず抱き着いていた。
母さんも俺を抱き締めて
「……お帰りなさい。さあ、家に帰りましょう」
その声は……
涙声だった。




