第216話 果たして帰還できたのか?
俺たちはどこかの日本の街の歩道にいて。
周囲に通行人がそれなりに。
車道には車が普通に走ってる。
そして周りの通行人たちは全員俺たちに
驚愕、困惑、恐れ
そんな感情が籠った目を向けて来ていた。
そりゃそうだろう。
この人たちにしてみれば、いきなり中世ヨーロッパ風の衣装を着た男女2名が路上にテレポートしてきたようにしか見えないだろうし。
だが俺はまず、彼らのそんな様子を何とかする前に
「すみません! どなたか電話を貸してくださいませんか!?」
俺は声を張り上げた。
時間が無いんだ。
大谷さんは言っていた。
俺たちの転移が成功した場合、しばらく周辺の状況を覗いているからと。
時間にして多分数分持たないから、その間に迅速に――
転移先が、俺たちの元の日本である確証を取って欲しいと。
それを見て、成功したか失敗したかを考えると。
――平行世界って概念あるよな。
今の世界とほぼ一緒だけど、特定の部分が少し違う世界。
日本が第二次世界大戦で負けなかった世界とか。
ペリー開国で日本がアメリカの植民地になった世界とか。
愛情と友情の定義が入れ替わってる世界とか。
この世界がそんな世界でない保証が無いんだよ。
だから大谷さんはそこを危惧してて、難色を示していたんだ。
だから俺は電話を掛けたいんだ。
自宅に。
俺の自宅に電話を掛けて、俺の親が出て。
俺が1年くらい前に学校から突如行方不明になったことになってれば
おそらく、元の世界じゃないか?
俺の自宅と電話番号が一緒で、起きたことも全く一緒。
そんな細かいところがピッタリ同じなんて、多分平行世界じゃないだろ。元の世界だろ。
そういうことなんだ。
「お願いします! デンワという道具を少しだけ貸して下さい! あとで必ずお礼をしますから!」
リスリーも声をあげてくれた。
助かるが、女性の身で「お礼をする」なんて言わないでくれ。
たまに「だったら身体で払え」なんて言い出す奴がマジでいるから!
そう思ったので
「俺は天衣高校でクラスごと行方不明になった高校生の1人です!!」
彼女の言葉を掻き消す勢いで、その情報を開示する。
ひょっとすると、これでいけるかもしれないという期待を込めて。
天衣高校とは俺たちの高校の名前だ。
そしてそれは
周囲の人間の反応が明らかに変わったことで
半ば、証明になった。
「ど、どうぞ」
通りすがりの少女たち2人が、俺たちにスマホを差し出してきてくれた。
中学生くらいの私服の少女たちで片方が活発そう。もう片方が大人しそうな眼鏡の少女。
彼女たちに俺は
「ありがとう! 名前は!?」
頭を下げて名前を訊ねると
「お礼は別に要りませんから。電話を貸すだけですし」
そう言って辞退。
俺はそれでもお礼をしなきゃいけないのではないかと思ったが
(時間が無い)
そこに思い至り、もう一度「ありがとう!」と言い。
俺は自宅の家電の電話番号をタップした。
俺の自宅の家電は、ナンバーディスプレイ機能が無かったはず。
頼む、出てくれ……!
そう祈りながら呼び出し音を聞いた。
それが数コール続いた後。
『はい、村田です』
聞き覚えのある声が、電話に出たんだ。
胸が熱くなる。
そのまま俺は言ったよ。
感極まり、涙を流しながら
「母さん! 俺だよ! マサヤだよ!」
その瞬間。
電話の向こうで息を呑む気配がした。
そして俺の母さんは
『マサヤ……?』
興奮した声で。
『今、どこにいるの!? 言いなさい! 迎えに行くから!』
そう、半ば叫ぶように、早口でそう言ったんだ。




