第215話 日本帰還魔法発動
そして次の日の正午。
俺たちがあの日、この世界に召喚された場所……
転移法陣の間の前に居た。
俺とリスリーは並んでその建物の前に立っている。
さすがに緊張はどうしようもない。
覚悟は決めたけど、場合によっては俺たち2人……いや3人は、この数分後には死んでいるかもしれないんだから。
そんなことにはならないと信じてはいるけどさ。
「それじゃ、俺たちの親にもよろしくな」
「俺も踏ん切りがついたらそっちに行くから」
ソウジとトオル相手に、別れの挨拶で抱き合って。
ソウジには親御さんへの連絡と。
トオルには後で再会することを約束し合った。
そして
「元岩戸さん、トオルをよろしく頼む」
「任せて。村田くんもリスリーさんをよろしくね」
女性陣にも挨拶をし。
最後に
「大谷さん」
「何かしら?」
魔術的儀式の細部確認なのか、メモを読み返している彼女に
「……ソウジのこと、しっかり支えてやってくれ」
それだけ言っておく。
彼女も、日本には戻らないと言っていた。
レフィカルに言った「日本は自分にとっては最低の国だった」という彼女の気持ちに嘘は無いから。
日本に戻るくらいなら、この国に居続けた方が良い。
ここでなら理不尽に苦しむことも無いし、自分の力で他人の役に立てる。
それに……
(ソウジがいる)
彼女は口にはしていないけど、それが一番大きいだろう。
ソウジは日本に帰還することが危険なので帰れない。
だとすると、ソウジの傍にずっといることができる日本人は彼女しかいないんだ。
だから俺は彼女にソウジを支えて欲しかった。
俺の言葉に彼女は
「うん……頑張るから」
そう、小さな声で。
そう言ってくれた。
その言葉を聞いた後
「行こう、リスリー」
「はい」
俺はリスリーに呼び掛けて。
転移法陣の間に入った。
そこには石の床に、大きな魔法陣みたいな文様が描かれている。
大谷さんの指示では、この文様の内側に入って、日本に帰りたいと念じ続けてくれということだった。
この部屋に入ると同時に、扉が閉じられる。
中の人間だけを日本に転移させて、巻き込みを出さないための措置らしい。
外からの音がだいぶ遮断され、ほとんど聞こえなくなってる。
でも、外では魔法の儀式がスタートしているはずだ。
「あと数分ですね」
俺の傍に立つリスリーが、微笑みながらそう言った。
でも、その笑顔は強張ってる。
……本心は怖いんだろう。
当たり前だよな。
未来なんて分からないんだ。
それに世の中は絶対はないんだし。
だから俺は
「リスリー、俺の世界には飛行機という乗り物があるんだけど」
「ヒコウキ?」
彼女に俺の世界の話をした。
「空を飛ぶ乗り物だよ」
「へえ」
「俺の従兄弟の兄さんが、よく仕事でその飛行機に乗る人なんだが……」
従兄弟の兄さんの話をした。
従兄弟の兄さんは社会人。
で、飛行機は極めて低確率だけど、墜落することがある。
そこで兄さんは飛行機に乗る前に、運気が上がる美味しいものを食べて運気を上げてから乗ることを心掛けている。
空港でかつ丼を食べるそうだ。
兄さんは「かつ丼を食べればカツわけだから悪いことが起きる訳が無いし、仮に落ちてもかつ丼が慰めになる」と言っていた。
そんな話を彼女にして
それを聞いたリスリーが
「カツと勝つを掛けてるんですか?」
フフッと笑った。
彼女のこわばりが取れた気がした。
そんな彼女の手を俺は取って
「リスリー」
強く握る。
そして
「こうして手を握ったままなら、どこに行くにも一緒だ」
そう言った。
すると彼女は無言で握り返してきて。
次の瞬間。
目の前が一瞬真っ白になって。
気が付くと……
俺たちは
「オイ、何だいきなり現れたぞ!?」
「変な格好……?」
「人間……?」
聞こえてくるのは自動車の走行音と、日本語。
驚愕一色で俺たちを見つめる、洋服を着た周りの人々。
そして日本語の文字の数々。
俺たちは……見知らぬ日本の街に居た。




