第214話 お前が一番の友達で良かったよ
「さあ、当分会えなくなるんだ。今日は飲んでくれ。食べてくれ」
トオルと一緒にリビングに行くと。
そこに大きなテーブルを運んで来てて。
色々な料理やお酒、お茶を並べている。
料理は揚げ物が中心。
その中に餃子、串焼きもあった。
「魔法は昼過ぎに行うから、そこに影響しなければいいから」
大谷さんはそう言いつつ、自分の分の赤ワインをグラスに注いでいた。
「リスリーさんは赤ちゃんがお腹にいるからお茶ね」
元岩戸さんがグラスにお茶を注いでいる。
「ありがとうございます」
そしてリスリーがお茶を受け取り。
「乾杯!」
送別会がはじまった。
「リスリーさんがお母さんになるときに、私は傍にいないのね」
「静香さんには大変お世話になりました。ありがとうございます」
静香ってのは元岩戸さんの下の名前だ。
今は岩戸さんじゃないから、リスリーは下の名前で彼女を呼んでいる。
まあ、彼女はリスリーと俺の仲が固まる過程で色々あったし。
話すこと多いんだろうな。
リスリーと元岩戸さんはずっと仲良さそうだったしさ。
そんなことを思いつつ俺が蜂蜜酒を一口飲ったとき。
「マサヤ」
俺にソウジが話し掛けて来た。
「ソウジ」
……ソウジは日本には帰らない。
絶対に、だ。
理由は「今、ソウジが生きているのはスキルのお陰」であるから。
日本に渡った瞬間、魔法やスキルが使えなくなり、その効果を失う可能性は無くはないだろ?
だからソウジは日本に帰るのが危険すぎるんだよ。
死ぬ可能性があるから。
トオルは踏ん切りがついたら日本に帰ると言ってる。
今はまだ覚悟が固まらないんだそうだ。
だからトオルとは向こうで再会できる可能性はあるけど。
ソウジはそうじゃない……
俺の胸に、寂しさがこみ上げてくる。
俺のそんな気持ちを感じ取ったのか
「おいおい。この国を救った大英雄が何をしてんだよ」
そう言って笑いながら俺の肩を叩き
そして
「お前は大した奴だよ」
そんなことを言い出した。
ちょっと待ってくれ。
「俺は運が良かっただけだ……何の計画もなく王都を離れて、魔王領で大谷さんと再会し、大谷さんの部下になれば何か糸口が掴めるかもと思ったからそうして、そしたら大谷さんが計画を練っていて、それに乗っかっただけ……」
一部、墓場まで持っていくことがあったから話さなかったが。
概ねそんな感じだ。
俺は別に、あの日のあのとき、明確に勝算があって行動を起こしたんじゃない。
そのときそのときの「最善」と思える行動を選んだだけ……
言ってしまえば「いきあたりばったり」に動いた。
お前みたいに理性的に動いた結果じゃない。
だけど
「でも、お前が行動を起こしたから全て上手く行ったんだ。運が味方してくれたのもそのせいだろ」
ソウジは俺に、讃える目を向けてくれた。
俺はその目に戸惑ったけど、続けて
「俺にはとてもできない。俺は勝算の無い行動はできないよ……でも、そうしないといけないときもあるんだよな」
ソウジはそう言って……。
その言葉で俺は感極まり
「向こうについたら、お前の家にお前は生きてるって必ず伝えるから」
震える声を必死で抑え、ソウジにそう言った。
ソウジは日本に帰れないんだ。
そうしなきゃ、親御さん地獄だもんな。
俺のその言葉にソウジは少し寂しそうな表情を浮かべ
「ああ、よろしく頼む」
そう言って頷いた。
そして俺たちは
「俺、お前が一番の友達で良かったよ」
「俺もだよ……ソウジ」
そう言葉を交わして。
双方の飲んでいるグラスを掲げて。
一緒にその中身を呷って、飲み干したんだ。




