第213話 ふたりと大谷さんの決断、そして準備
「そっか」
次の日の朝。
大谷さんがいつものように王城に出向く前に。
玄関で。
俺たちは俺たちの意思を彼女に伝えた。
昨日聞いた、大谷さんが現時点で考案してる方法で日本に帰ると。
その言葉を聞いたとき大谷さんは顔を強張らせたけど
「……分かった。村田くんがオヨメと相談して決めたなら、私も覚悟をキメる」
そう言って。
続けて
「ぶっちゃけね。最後の最後は決断なのよね」
俺たちを安心させるためか、そんなことを言ってくれたよ。
日本帰還の魔法は誰もやったことが無い魔法だから。
どれだけ必死に研究を重ねても。
最初の1回は決断が要る。
魔法が失敗に終わるかもしれないというリスクを受け入れる決断が。
それが早まっただけ。
10年後にやるにしても、今やるにしても、そこは変わらないから。
そんな感じのことを。
だから
「早い決断は、英断かもしれないわ……いや、そうしてみせるから」
自分を鼓舞する意味も込めているのか。
そんなことを力強く言って
俺たちを見つめて。
「魔法を成功させてみせるから」
大谷さんはそう言い切った。
そんなの、俺たちとしては
「よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるしかない。
そこはもう、魔法使いである大谷さんに頼るしか無いんだし。
そんな俺たちに大谷さんは
「……1週間後にやるから、それまでに帰還準備して。挨拶とか、財産とか」
そう言った。
1週間後……つまりこの世界では5日後で。
財産は……
日本に持ち込んでも財産として通用するように、手持ちのお金を何かに変えろってことか。
宝石とか。
金とかに。
俺たちはそこから1週間、色々奔走した。
召喚騎士を管理している部署に届け出を出したり。
財産を宝石に変えたり。
その宝石に変える方法だけど、それは国にお願いした。
ぶっちゃけ、俺は自分の目が信用できない。
宝石の目利きなんてしたことが無いから、どのみち誰かの言いなりになるのは避けられない。
だとすれば、国に頼るのが最善手だろ。
だってこの国は、俺たちを騙して日本に渡った後に無一文になるように仕向けても、国の品格が落ちるだけで何も得るものないじゃんよ。
だから一番信用できる。
そして帰還魔法実行予定日の前日の夜。
「日本において、何か気を付けることはありますか?」
リスリーは、俺たちの全財産を宝石に交換して詰め込んだ革袋を丁寧に背負い袋に収納しながら
明日の話をした。
俺は
「日本では人攫いのような奴らはいないけど……騙そうとする奴がかなりいる」
俺は俺で、持っていくものの点検をしながら、そう返す。
日本ではあのときの……
この世界に召喚されて、リスリーと王都を離れたときに遭遇したような、奴隷狩りを行う犯罪者は多分いない。
ハイエースで攫われる話は聞いたことあるけど、一般的では無いだろ。
それよりも……
個人情報を聞きだしたり、カードの暗証番号を訊いてきたり。
甘言で怪しい集会に誘い込んだりする奴の方がメジャー……のはず。
「だから誰かに何か重大なことを言われても……すぐに信じないで、必ず俺に相談してくれ」
「分かりました」
俺の言う注意点を彼女はそう言って素直に聞き入れてくれた。
リスリーは真面目だし、絶対に守ってくれるという安心感がある。
助かるよな、ホント。
で、俺の方から
「明日、転移が終わったら……まず電話を掛けるから」
大谷さんに言われてる転移後に行うことを彼女に説明する。
実はすでにこれは前に1回言ってるんだけど、もう一度だ。
「はい。デンワとは、離れた場所にいる人と会話するための道具なんですよね」
俺の言葉にリスリーは頷き、理解度を伝えるための返しをする。
俺は彼女の言葉に安心と信頼を深めつつ
「そう。それでまず俺の家に……」
そう、続けようとしたとき。
突然部屋のドアがノックされて
続けて
「マサヤ、リスリーさん、居るか?」
トオルの声がした。
俺たちはトオルが何をしに来たのかは予想できていたので。
そこで会話を打ち切り
「今行く」
「行きます」
ふたり、座っていたベッドから立ち上がった。
呼ばれた以上、すぐに行かなきゃならない。
トオルたちが企画してくれたんだし。
俺たちの送別会を。




