第210話 先に出来てしまった。
「マサヤさん」
そしてまた時間が流れ。
ある日のこと。
食事が終わって部屋で寛いでいるときに。
リスリーが部屋に戻って来て。
俺に真剣な顔で
「ちょっといいですか?」
そう言って来たので。
俺は読んでいた本を閉じた。
……なんとなく予感があったんだよ。
「もしかして」
リスリーは頷いた。
「多分、身籠りました」
身籠った……妊娠したってことか。
その表情には焦りがあったと思う。
多分、まだ帰還魔法が開発できたって話を大谷さんから聞いて無いからだ。
というか、それ以外無いよな。
彼女は俺の世界について来てくれるって言ったんだ。
だから覚悟を決めてくれてる。
お義母さんにだって言ったんだし。
この世界を将来的に出ていくかもしれないって。
だから「このままいけば異世界渡りをしなくて済む」なんて彼女は考えない。
俺はそう信じている。
「どうしましょうマサヤさん」
「どうって……」
焦りを含んだ表情でそう言う彼女に
俺は
「産んでくれよ。それ以外無いだろ」
……迷いは無かった。
大体子供が出来ることを彼女と続けて来たのは俺で。
今のタイミングで妊娠するとまずいから、諦めてくれなんて最低過ぎるだろ。
そしたら
「……いいんですか?」
彼女は俺の真意を探るみたいな視線を向けてくる。
……あのさ
見損なうなよ。
だから
「良いに決まってる。キミを妊娠させたのは俺だし」
多少声が荒くなった。
それを感じ取ったのか
「……ごめんなさい。マサヤさんはそうですよね。こんなときにそんなことを言う人では無いのに」
そう言って頭を下げ、俺を疑ったのを詫びてくれて
その後
「……でも。帰れないんですよ? ご家族に会いたく無いんですか?」
「会いたいさ。当たり前じゃん」
リスリーのその言葉に、俺は即座にそう返し。
そして
「でも、子供が出来た以上しょうがないだろ。あきらめるよ……」
そこで一拍置いて
「あと3年以内に開発できなかったらね」
そう、続けた。
「3年……?」
俺の言葉の真意が読めず、そう訊いてくる彼女に俺は頷き
「俺たちの子供が生まれてくるまで、1年近く掛かるわけだし」
説明した。
「そして生まれて2才くらいまでは、子供の方に住み慣れるという感覚が無いんじゃないか?」
俺が自分の幼少期を思い出しても。
2才くらいのことは朧げに覚えているだけで。
自分を取り巻く世界をロクに認識していなかった気がする。
だったらそのタイミングで帰還しても、まだ間に合うだろ。
もうちょっと大きくなって知性が成長して、自我が出て来たら話は別だけど。
そう俺が自分の考えを述べると。
彼女は自分のお腹に手を当てて
「……そうですね。まだ時間がある」
ホッとしたような表情で。
嬉しそうに微笑んだ。
そして俺はその表情に。
彼女に「俺の奥さん」を強烈に感じて。
とても愛おしくなって。
思わず抱き締めてしまった。
そして衝動のままに
「俺の子を妊娠してくれてありがとうリスリー」
思っていることを言葉にした。
そして彼女は俺の腕の中で俺の言葉に
「……私。この世で一番大切な男性の子供を産めるのが最高に幸せです」
そう、声を震わせてそう返してくれた。




