第206話 お義母さんの決意
俺の言葉にリスリーのお母さんは沈黙し。
そして
「……どうぞ、よろしくお願いします」
頭を下げてくれた。
俺は
「ええと、理由は聞かないんですか?」
もっとあると思ったんだ。
何故娘を選んだのかとか、どういうことなんだとか。
なのに、リスリーのお母さんは俺に何も訊かなかった。
何も訊かずに
「私の娘が決めたことですし」
そう、リスリーの決定を尊重したんだ。
そして苦笑を浮かべ。
「私自身、家の意向を無視して勝手に家を飛び出した人間ですから」
そんなことを。
……そういやそうだった。
リスリーのお母さん、神官目指して学校に通っていたとき。
家の格がかなり下であるリスリーのお父さんと恋に落ちて、勝手に家を出て結婚したんだっけ。
セレーネさんがそんなことを言ってたな。
そのとき多分、色々言われたんだろうな。
だから娘には何も言わないのか。
自分が辛かったから。
「ですからよろしくお願いしますね」
「はい。任せてください」
頭を下げるリスリーのお母さんに合わせて、こっちも頭を下げる。
その様子に
リスリーが
「母上……」
何か感じ入ったようにそう言って。
顔を上げたおかあさんと
「リスリー、村田さん協力して生きていくんですよ」
「ええ母上。当然です」
そう言葉を交わし合い
そして
「それと母上……」
リスリーは話し始めた。
俺たちの仲間である大谷さんが今、異世界召喚の魔法を研究して、逆のこと……日本帰還をやる魔法が出来ないかを研究してることを。
そしてそれが完成したら、リスリーは俺と一緒に日本に渡る気だということを。
そのときの表情は少し硬かった。
自分のおかあさんに拒絶される可能性を考えていたのかもしれない。
だけど
「そう。……そのときは母のことは考える必要は無いですよ」
リスリーのおかあさん……いや、お義母さんはとても強い人だった。
そんなこと嫌に決まってるはずなのに、嫌とは言わなかったんだ。
ただ
「……村田さん……いいえ、マサヤさんは元々、自分の祖国から無理矢理攫われて来た人です。そんな人をこちらの世界に縛り付けるのは違います。帰れるなら帰らせてあげるべきです」
「そして夫婦は別れず一緒にいるものですから、娘が向こうに行くのは当然のことです」
そう、自分が思う道理というものをハッキリと、堂々と口にしたんだ。
そしてそう言い終わった後。
「マサヤさん。娘を本当によろしくお願いします」
再び、俺に頭を深々と下げて来た。
そんなの
「ええ。絶対に幸せにしてみせます!」
こういう以外無い。
それに……
これは絶対に破れない。
破れない口約束ってやつだ。
俺はその誓いを立てたとき、心の底からそう思った。




