第205話 リスリーの実家訪問
「久々だな」
「そうですね」
荷物を入れた背負い袋をそれぞれ背負って。
俺たち2人はリスリーの実家がある村にやって来た。
あのときと変わらず、農作業をしている人々がいる。
ちょうど今、田んぼで田植えをしている。
機械なんて無いから、当然手作業だ。
なので
「今、田植えの時期なんだ」
「ええ。皆豊作を願いながらやってますね」
そんな言葉を交わす。
ここに最初に来たときは、だいぶ稲穂が育ってたような気がする。
あれからだいぶ経ったんだなぁ。
……あのときは。
リスリーとこんな関係になるとは思って無かったな。
あとここに再びこうして、挨拶に来ることも考えて無かった。
「リスリー!」
そのとき。
農作業をしている農民の1人が。
こっちに向かって手を振って来た。
俺は知らない人だったけど
リスリーの知り合いなんだろう。
「アア、イサークスティネーブアエリウ」(ああ、イサークさんお久ぶりです)
リスリーはその人にノーザリア語でそう返す。
それは中年男性で。
ゴツイ体つきで。
逞しい感じの男性だった。
彼は農作業を中断し、こっちにやって来て
「エラウオーフォモルフウオーダエルサッククロウヤドト」(今日はお城の仕事いいのかい?)
そんなことを言って来た。
リスリーは頷き
「イアダレトモドナイアコートアヤドフォレテゴト」(少し母に用事があったので、2人で休みを取って来たんです)
2人、という言葉で。
そのイサークという農夫の男性は俺の存在に気づいたらしい。
「イアエース」(なるほど)
俺はその視線に値踏みを感じた。
まあ、この男性はリスリーの知り合いみたいだし。
彼にとってみれば「知ってる女性が旦那か恋人を連れて戻って来たんだ」というもので。
そりゃま、少しは値踏みもするよな。
だってそれなりに親しい知り合いの相手なんだから。
で
「イアエース。エカムエルスウオーダレトモナックレーフタエサエプ」(そうか。お母さんを安心させてやりな)
何か、認められたようなことを言われた。
ちょっとだけ嬉しかった。
そしてそこでその農夫の男性とお別れし。
ついに
俺たちはリスリーの実家に到着する。
貴族の家だけど、別に普通の大きさで。
周辺の家と大差ないその藁葺き木造の家に。
「母上ー! ただいま戻りました」
あのときみたいに。
リスリーが家のドアを開けてそう帰宅の挨拶をする。
あのときと違うのは、声に悲壮感が無くて。
喜びに溢れていることだ。
するとまたあのときみたいに
「お帰りリスリー。……聞きましたよ。成し遂げたのですね」
奥から年配の女性が出て来て。
帰宅した自分の娘であるリスリーを労う言葉を言ってくれた。
その表情は本当に嬉しそうで。
誇らしげに感じた。
「マサヤ様、ありがとうございます」
そしてまたあのときみたいに。
よく分からないハーブティを3人分。
それで3人でテーブルを囲みながら
「正直死を覚悟しておりましたが、それを無駄に終わらせてくださって本当にありがとうございました」
リスリーのお母さんはそう言って。
そして俺に、深々と頭を下げてくれた。
俺はそれに対して
「俺だけの成果じゃないので」
遠慮をした。
そうしないと何だか他人の成果を奪っているような気になるしな。
でも
「あなたが立ち上がってくれたから、成し遂げられたんです。誇ってください」
リスリーのお母さんはそう言ってくれる。
それは嬉しい。
……で。
この流れで切り出すのは正しいのか?
少し迷いはあったんだけど。
今日ここに来たのは、そのためでもあったし。
思い切った。
「すみません。おかあさん」
おかあさん、という言葉を使うとき。
緊張した。
緊張したけど、言わなきゃならないことなんだ。
だから俺は言ったよ。
「娘さんと結婚させてください」
……ハッキリと。




