第200話 一体何が悪いんだ?
「大谷さん!」
俺とソウジとリスリーが、同じ名前を口にした。
まさか、と思った。
最悪の想像をした。
レフィカルが寄生虫を暴走させ、大谷さんを道連れにしたのかと。
だけど
「……え?」
どうして急に楽になったんだ?
そう言いたげな顔で起き上がって来た大谷さんの姿で霧散した。
「大谷さん!」
リスリーが介抱するために駆け寄る。
駆け寄りながら
「マサヤさんがやってくださいました! それに喜んでください! ソウジさんが蘇られました!」
戦いの終わりと、彼女が聞きたいであろうその事実を伝えた。
一方俺は
(どういうことなんだ……? レフィカルが大谷さんを解放したのか……?)
困惑する。
こいつはそんなにイイヤツじゃない。
そもそもイイヤツはこんなことはしないだろ……!
そう思ったとき。
「……もう、どうせ駄目だ」
弱弱しく。
レフィカルが話し始めた。
レフィカルは
「……そいつに寄生させてた蟲は……脳内で自死するように仕向けた。あとは魔法でなんとかなるはずだ」
そう呟くように言う。
うつ伏せのままで。
俺は嫌悪感を滲ませながら
「……命乞いかよ。悪いが助命嘆願は一切しないぞ? お前は罪を重ね過ぎた」
先にそう言った。
だがレフィカルは
ボロボロの身体でゴロリと寝返りを打ち。
顔を顰めつつも、うつ伏せから仰向けになった。
そして
「……違ェよ……もう、どうでもいいんだよ……」
そう言った後。
突然、嗚咽を洩らしはじめた。
大の男の「泣き」だ。
俺たちは皆、何も言えなくなった。
あまりにも痛々しく感じたから。
こいつは許せない奴だけど、俺たちは何も言えなかった。
そんな中
「俺はなぁ……女手ひとつで俺を育ててくれた母さんの夢を叶えたかっただけなんだよ……」
レフィカルはそこから語り始めた。
自分がどう育って来たのか。
こいつは……
物心ついたときから
お前は王族の血を引いている。
お前は本来は王になるはずだった方の子だ。
お前の父はその才能を妬まれて謀殺された。
私が正妻だったら、そんなことにはしなかったのに。
役立たずの正妻め。あんな無能な女が正妻だなんておかし過ぎた。
何故私は正妻になれなかったんだ。
この国は狂っている。
お前は必ずや父上の無念を晴らすのですよ……
母親からそう囁かれて育ったらしい。
……とんでもない女だな。
自分のコンプレックスの解決手段を子供に求めてんじゃねえぞ……!
子供はお前のためのアイテムじゃないんだ。
でも、だけど
「親のために一生懸命になって一体何が悪いんだぁぁぁぁぁ……俺に親を捨てろって言うのかぁぁぁぁぁ……!」
ウエェェェェェン!
そしてレフィカルは泣いた。
まるっきりガキの泣き方だった。
大の男の泣き方じゃない。
まるっきり5才のガキだった。
それを見ていた俺たちは。
それに誰も何も言えなかったし。
慰めることもしなかった。
哀れかもしれないけど。
同情は出来ないからだ。
こいつは国を狂わせた大罪人だからだ。
その罪に相応しい裁きを受けることは避けられないし。
庇う気は毛頭なかった。
でも、皆顔を顰めていた。
ソウジは本当に嫌そうにしていたし。
大谷さんは目を逸らしていた。
リスリーは怒りの目を崩してはいなかった。
そしてそのままレフィカルの泣き声が響く中。
ようやく、後宮内の警備を引き受けている女性兵士たちがその場に集まって来た。
――こうして。
この国の狂った計画「異世界召喚」が終焉を迎えたのだった。




