第20話 代わりの仕事
「……どういうつもりかなぁ?」
闇業者は不機嫌さを隠さない声音で俺に言う。
汚い手を離してくれないか? そんな気持ちが籠ってる。
だけど俺は
「……1万ドログを簡単に稼ぐ他の仕事で代用できないか? だからそれは勘弁して欲しいんだよ」
ハッキリとそう言った。
何故って
「彼女の表情を見たら、どう考えてもそれ、ただの宝石じゃ無いだろ」
そう……
リスリーの顔を見たら、この宝石が普通の意味合いの宝石とは思えない。
何か、とても大切なもののはずだ。
この財産袋、元々の彼女の持ち物だけど
ひょっとして……
「リスリー、言ってくれ」
俺は促す
「マサヤ様、でも……」
「良いから!」
少し声に苛立ちが混じる。
それで自分が不機嫌さを出して相手を威圧したようで、少し俺は嫌な気分になったが
それは今は仕方ない。
彼女の言葉を待った。
するとだ……
「私の両親の結婚指輪です……」
やっぱり。
そんなとこじゃないかと思ったんだよ。
表情が普通じゃ無かったからだ。
だから当然俺は
「そんなもんを売り払わせるわけにいくかよ!」
そう言い放ち。
闇業者に
「だから、俺に簡単に1万ドログ稼げる仕事を紹介しろよ!? 何かあるだろ!? 闇業者なんだし!」
我ながら。
一方的な要求を突きつけた。
闇業者の男はポカンとしてたけど。
一瞬後、笑いはじめて
そして
「……失礼。熱いねキミ。実は私はそういうのは嫌いじゃ無いんだ」
少しだけ、表情が柔らかくなった気がした。
そして闇業者の男は
「いいよ。ちょうどいい仕事があるんだわ……それをやって貰おうかな」
俺を試すような視線を向けて来て
話し始めた。
「地下闘技場ってのが、この街にあるんだけど。そこで不敗のチャンピオン相手に戦って貰いたい」
とても楽しそうに。
「所謂賭け試合で、キミのような無名のド素人が相手だと、オッズが100倍以上に跳ね上がるんだよ」
俺の表情を興味深く見つめながら。
「僕はキミに100ドログ賭けるから、キミが勝てれば1万ドログ以上の大儲けだ」
それは俺に賭け試合で戦えという仕事だった。
違法薬物の運び屋とか、誰かを殺してこいとかじゃなかった。
そこはホッとした。
だけど
「さぁ、どうだい? ただしキミからのギブアップは認められないから」
相手はギブアップできるけど、俺からは無理。
なので俺が生き残るには勝つしかない、恐るべき殺人試合だ。
俺は
「……なんでそんなカードが組まれるんだ?」
それを訊ねずにいられなかったから訊ねる。
闇業者の男はニコニコしながら
「決まってるだろ……? 達人相手にド素人が一方的に嬲り殺しにされるのを愉しむのさ」
そんな、黒すぎる返答を返して来た。
なんとなくそうじゃないかと思っていたけど、ハッキリ言われるとさすがに動揺する。
だけど
「……いいよ、やるよ。やればいいんだろう?」
こう答えるしかない。
頭悪いと言われるかもしれないが、無理なんだよ。
闇業者は俺のその返事を「へぇ?」とでも言いたげな表情で見つめる。
ビビッて発言を撤回するとでも思っていたんだろうな。
生憎だが、これは絶対に許容できないんだ。
家を潰す覚悟を決めた女の子に、両親の思い出まで手放させるような非道な選択。
俺が耐えられないんだよ。
「マサヤ様……!」
リスリーの声には焦り……いや、恐怖があった。
でも、耐えてくれ……
しょうがないんだよ。




