第19話 闇業者との交渉で
「私は……」
「リスリー、それは言わない方が」
なんとなくそう思ったから俺はリスリーの言葉を遮った。
多分こういう情報の漏洩って、この手の人には地雷だろ?
言わない方が良いと思うんだ。
従姉の名前を出す気なんだろうなと思ったから、とっさに。
リスリーは言葉を止め
「マサヤ様、でも……」
言わなきゃ進まないと思ってるのかな。
そうかもしれないけど、それは最終手段にしたい。
俺たちのそんな様子に、闇業者の男性はフフッと笑う。
「……まぁ、いいかな。私に声を掛けるってことは、魔王領に行きたいのだろう? ……理由は何? さすがに犯罪犯して国外逃亡ならお断りだけど」
そして流れるように仕事の話に切り替えて来た。
その様子は余裕たっぷりで
熟練の闇業者らしかった。
リスリーは闇業者の前の席に座り。
闇業者の言葉に首を左右に振って
「違います。魔法を習得するためです」
そう一言。
自分たちは面倒な客では無いという意志表示。
闇業者は笑って頷き
「OKOK。そういうのも多いよ。魔王領へ行くのは、モグリで魔法使いになりたいとか、魔族と商売がしたいとか、ダンジョンに潜りたいとか……色々あるね。私はそのお手伝いをするのが仕事で、それでお金をいただいているんだ」
そう、にこやかに自分の仕事について話す。
「やっていただけますか?」
身を乗り出してリスリー。
闇業者男性は頷いて
「お金を払ってくれればね」
ニコニコと、そう返す。
「おいくらですか?」
その値段は
「1万ドログ」
リスリーの表情が強張った。
……1万ドログ。
ドログはこの国の通貨の名前だっけ。
元々は黄金を意味する古い言葉らしいけど。
それが1万……
「どのくらいの値段なの?」
「大体、一般的な人の年収の3分の1です……」
マジか……。
つまりこの男、130万円くらいのお金を要求してるってことか……
ちょっとそれは
「高過ぎないか?」
思わずそう言うと闇業者は
「そりゃ、キミたちは初見さんだからね。常連さんで信用があるなら1000ドログくらいまで勉強させて貰ってるけど」
つまり正規料金の10倍かよ。
足元見やがって。
そんな気持ちが俺の顔に出てたのか
闇業者は挑発するように
「あのね。私は闇業者なのよ。国に目をつけられないように、細心の注意を払ってお仕事をしてるわけ。だから新規の客を迎えるときは慎重になるさ。その慎重さが値段に出るんだよ」
薄笑いを浮かべつつそうスラスラと言い
「文句があるなら話はこれまでだ。腹いせに言いふらすなら好きにすればいい。……その場合は、報復を覚悟して貰うけど」
……そう、斬って捨てて来た。
交渉の余地などないってことか。
分かった……
どうする……?
これから2人で頑張って1万ドログを稼ぐのか……?
そう思ったとき。
リスリーが強張った顔で。
俺たちの財産を入れている布袋から
2つの、赤い宝石が嵌った指輪を取り出して来た。
……綺麗だった。
素人目にも、値打物なのが分かる。
すごく細工されてるし。
そして宝石自体が赤く輝いている。
それを見て闇業者の目が輝いた。
「……おお。それはグニールフォトナイダーデールエマルフじゃあないか。貴重な魔宝石の指輪……それが2つなら余裕で1万ドログを支払えるな……それで払うっていうのかい?」
リスリーが頷く。
青褪めた表情で。
「OKだ。それで受けよう」
それを見た闇業者が、リスリーの差し出した指輪に手を伸ばす。
だけど
「待った」
俺はその闇業者の手を掴んで止めた。




