第18話 不在の従姉の行方は
「それはつまり、魔王領に出向いてるってこと?」
俺の言葉に彼女は頷いた。
「おそらく」
それは……
困ったな。
魔王領に正規の手段で行くのは今の俺たちには不可能だ。
何故って国の許可を取らなきゃいけないに決まってるし。
その国の力が使えない今の俺たちには無理な話。
かといって、独力で勝手に侵入するのも現実的じゃない。
国境警備もあるだろうし。
それに向こうの勝手が分からないのに、えいやと飛び込むのはいくらなんでも無謀すぎる。
どうしよう……?
「じゃあ、リスリーの従姉がここに戻ってくるまで冒険者でも続けて待つしかないのかな?」
俺はそう、思いついた現実的な提案をすると
彼女は首を左右に振る。
一応、その必要はないと。
その理由は
「一応、前にこっそり教えて貰ったことがあるんです」
リスリーは知っているそうだ。
魔王領への侵入を生業にしている闇業者相手の「符丁」を。
誰にも言うなという前置きで、従姉が教えてくれたそうだ。
仲が良かったから。
それはこういうもので
「こんにちは。魔王領に詳しいって本当ですか?」
……ちょっと待った。
思わずツッコむ。
「そのまんまじゃん。符丁だろ? 合言葉だろ?」
全然符丁じゃないじゃん。
機能してない!
そう思ったけど
「……これ、日本語ですよ?」
そう返されて。
あっ、と思って納得した。
つまりだ。
その闇業者は日本語が喋れて。
そんな相手に、いきなり日本語でそう語りかけるのか。
そりゃ符丁で通じるかもしれない。
だって普通の人は日本語で他人と会話しないし、話し掛ける第一声が日本語になったりしないから。
なるほどなぁ。
「で、どこに行けばその闇業者に会えるのかは知ってるの?」
そして核心部分を訊ねる。
府庁が分かっていてもそこが分からないとしょうがないだろ。
それについては
「一応、この街の場末の酒場に居るという話は聞いてます。身分の高い人はまず行かないような」
……手掛かりとしては少し不安だ。
だけど、文句ばかり言ってる場合じゃないよな。
「じゃ、聞き込みしようか」
「そうですね」
……それしかない。
そして。
飲み屋街に出向き、安そうな店に片っ端から飛び込んで聞き込んだ。
……リスリーが。
俺はただ、後ろから見ているだけ。
正直情けない気持ちになったけど、言葉が分からないからな。
俺には何も出来なかった。
そして何軒目の安酒場だったか
「イリァー!? クナットウオーオスフカム!」
リスリーが、酒場の主人相手に歓喜の声をあげた。
何でか?
まぁさすがに想像はつく。
それは……
「この店に、従姉が良く来るそうで、奥の席に座ってる身なりのいい男とよく話し込んでるそうです!」
目的の人物が見つかったってことだろ。
小声でそのことを報告してくれるリスリーに俺は
「良かった。さっそく話をしに行こう」
そう返した。
奥の席。
周囲に他の席があまりなく、なんとなく孤立している位置にある席で。
そこに確かに人が居る。
こんな店に来るには少し身なりが良過ぎるんじゃないかと思うような服装の中年男性が。
それに闇業者にしては……顔つきに荒々しさが無い気がする。
だけど……
「こんにちは。魔王領に詳しいって本当ですか?」
そう日本語で話しかけると
その男は
「……ん。見ない顔だけど、誰からその合言葉を訊いたんだい?」
俺たちを見て、訝し気な表情を浮かべて。
そう日本語で返して来たんだ。




