第135話 私は元々従者ですし
「マサヤさん、おかえりなさい」
宿舎の自室に戻ると。
リスリーが待っていてくれた。
帰って来た俺の顔色から何か察したのか
「……何かあったんですか?」
訊かれた。
正直、助かる。
彼女にどう切り出そうか少し迷ってたから。
俺が引き起こしたことだけど、相談はしたかったし。
出来れば手伝って欲しかった。
相手は2人居るんだ。
俺1人は無謀すぎるだろ。
「悪い。面倒なことになった」
部屋の椅子に腰掛けて、隣に座ってくれるように言って。
話す。
嘘は言わなかった。
彼女を騙すなんて許されない。
「……俺はコバルとゴワケが大嫌いだけど、コバルの奴にとってゴワケだけは下げたくない頭を下げてまで守りたい相手だったんだと思うと、黙って居られなかった」
そう、全部話した後。
俺は彼女の反応を見た。
彼女は眉根を寄せて、顔を顰めた。
苛立ちを抑える表情に思える。
そして
「……私もあの人たちは嫌いです。マサヤさんを馬鹿にしましたし。特にあの、ゴワケとかいう人は引っ叩いてやりたいくらいムカムカしてます」
……彼女はあの女に、下品極まりない侮辱までされてるしな。
瞬間沸騰的にキレはじめてもしょうがないんじゃないかと思えるくらいに。
彼女があいつらを嫌うのは別に普通だろ。
「……でも」
そこで言葉を切って
「マサヤさんが兵団長のあの人に食って掛かったのは、気持ちは分かります……確かに、いくら嫌いでもやっていいことと悪いことがありますよね」
俺をじっと見つめて来た。
俺も彼女の目を正面から見返す。
そして
「ええと、マサヤさんは私に悩みを聞いてもらいたいだけですか? それとも……」
「ゴメン、手伝って欲しい」
促されたから、応える。
彼女は賢いから、読まれてたみたいだ。
俺の言葉にリスリーは息を吐き
「私は元々あなたの従者で、望まれれば何でもやる立ち位置ですし」
スッと俺の隣の席から立ち上がり、棚に向かった。
そこに俺たちの荷物一式が置いてある。
彼女の剣や革鎧なんかもだ。
「今はあなたの恋人ですけど、だからといってあなたの意向に逆らえませんよ」
そう言いながら、彼女は自分の武装を身に着けはじめた。
鎧を着用し、腰に長剣を提げ、ダンジョンアイテムである天空の長靴を履く。
そして自分の武装を点検するように、自分の身体に視線を送りつつ
「……分かりました。お供します。……当然今から出るんですよね?」
そう、こちらを見ないで言ってくれる。
まるで当たり前のことをするみたいに、だ。
俺はそれで胸がいっぱいになった。
嬉しい。
「ああ……!」
俺は頷き。
言う。
「ありがとう、リスリー」
俺のその言葉に彼女は微笑み
「礼にはおよびませんよ」
武装以外の持ち物のチェックをしながら
「私だって、大切な男性を1人で戦地に送り出すのは嫌でしたし。この前」
……この前。
豆一族の集落に攻め込むときのことか。
あのとき、彼女は領主の要望で参加が許されなかったんだ。
……その理由は簡単で。
単にノーザリア語の分かる兵隊を送り込みたくなかったからなんだけど。
思えばあのときから怪しかった気がする。
まあ、それはそれとして。
この、俺のせいで降って来たこの厄介事については
「だから……相談してくれてありがとうございます」
彼女は一緒にやれるし、彼女はやってくれると言ってくれた。
俺の向いてる方向を肯定してくれた。
……感謝しかないさ。
だから
「本当にありがとう」
もう一度お礼を言い
俺も準備をはじめた。




