第132話 ありがとう村田君
雑魚無双にも投げ技が効く。
その理屈は、ダメージの源泉が自分の体重だからだ。
つまり他者からの攻撃ではなく自爆にカウントされる。
ならばその理屈で、首吊りも無効化できないはずだ。
何故なら首吊りで自分に致命打を与えるのは同じように自分の体重だから。
そして雑魚無双が無効化できない攻撃は、暴力無効も同じように無効化できない可能性が高い。
……まずい。
このままでは大谷さんが殺されてしまう!
「首吊りはきっと苦しいわよ? ……お前が悪いんだからな? 逆恨みするなよドブスがッ!」
そしてゴワケは大谷さんを肩に抱え上げた。
女子にしたら、ゴワケは体力派なのかもしれない。
ふらつきもなく、真っ直ぐに
部屋の隅にある、金属製の帽子掛けに歩いていく。
あそこにスカーフを引っ掛ければ、首吊りを実行することが可能かもしれない。
だって重そうだもの。
大谷さんの体重くらいなら多分支えられる……!
俺は焦った。
大谷さんを助けないと、俺の計画が狂う。
あのハゲに近づくことができなくなる。
いや、それ以前に……
大谷さんを死なせたくなかった。
大谷さんはソウジが助けた女の子で。
ソウジのことを今でも大切に思ってくれてて。
ソウジの友達だからと、トオルと岩戸さんにも優しくしてくれている。
個人的好悪だ、と言われればそうかもしれないが。
俺は絶対に嫌だった。
だから――
(生命の精霊ライブラよ! あの女の子の麻痺を解除しろ!)
俺は魔法を使った。
無詠唱で。
その瞬間、空気が変わった気がした。
聞こえて来たのは
「えっ」
ゴワケの怯えの混じった声と。
「猿がッ……!」
大谷さんの静かな怒声。
良かった……
大谷さん、麻痺が解けたんだ……
魔法を使う際、本当は別に詠唱をする必要は無い。
ただ、通常恐ろしく精神力の負担が増えるので、誰もやらないだけだ。
それに魔法の威力の底上げもできないしね。
でも、やれないわけじゃないんだよ。
ゴワケはそれを知らなかったのか。
それとも、精神的負担が激増するから、使えば使用者が気絶すると踏んだのか。
俺の意識は闇に落ちていった。
どんどん混濁していく。
無詠唱で魔法を使ったせいだ。
最初魔法を得たとき、軽い体調不良をうっかり無詠唱で治療してめっさしんどくなった。
軽い体調不良でそれなんだ。
強力な麻痺毒でそれをしたら、当然……
意識を保つことすら難しくなる。
もう、見えてるものが理解できない。
なんだか目の前でわーわーいいつつ取っ組み合ってるように思えた。
そして俺の意識が途絶える。
眠い……!
ハッとする。
飛び起きた。
俺は領主の部屋の来客用のソファで寝かされていた。
覚醒直後だが、妙に頭が冴えていた。
大谷さんは!? ゴワケは!?
そう思ったとき。
「……気がついた?」
俺の傍で大谷さんが、領主の椅子を傍に持ってきて座ってて。
心配そうに俺を見ていたんだ。
彼女は俺に
「村田君、ライブラの魔法が使えたんだね。本当にありがとう……危なかったよ」
深々と頭を下げて礼を言ってきた。
だけど俺は
「そんなことはどうでもいいよ! 当然のことだろ! それよりも!」
ゴワケはどうなった!?
コバルも気になる!
そこを訊ねようとした。
彼女はそんな俺の思いを察したのか。
教えてくれたよ。
眉根を寄せながら。
それは
「ゴワケとコバルの2人は、脱走したわ。……豆一族から没収したダンジョンアイテムを根こそぎ盗んでね……!」




